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59話「嫌悪した」
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5時間目が終わった。
沢野を誘って、宮崎の所に行こうとして。
沢野が教室にいないことに気がついた。
(トイレ行ってんのかな)
だったら1人でいいか、と。
一歩、教室から足を踏み出した。
ガヤガヤとうるさい廊下に出ると、それでも教室の中にいた時の人間くささが少しまぎれて、涼しくていい空気が体を包む。
俺は、あの空気が苦手だ。
人とすごい近距離にいるような気がして。息をするたび、人と口づけながら呼吸している様な気がして。
あの、むさくて暖かくて、濃い密度の空気が嫌いだ。
「・・・」
宮崎もきっと、ああいう空気が嫌いなんじゃないかな、と思った。
初めて電車で会った時、ドアの前、ドアとドアの合わせ目に立っていた。たまに窓の外を向いて、涼しい空気を吸うようにしていたし。
2人で電車から降りた時、気持ち良さそうに息を吸っていた。
それに、広くて景色のいい場所とか、人の少ない所とかも好きみたいだ。
だからだったのかな。
宮崎と一緒にいる時、すごく楽で。宮崎と一緒にいると、楽しくて。心がスッと、軽くなった。肩の力だ抜けて、歩きやすくて。
だから一緒にいたいと思った。
「・・・あれ?」
たどり着いた宮崎のクラスの教室。
覗き込んだドアから見える限り、たくさんの人で溢れかえっていた。宮崎の席は、一番後ろの一番窓側。
そこに視線を合わせると、椅子に逆向きで座りながら下を向いて笑っている宮崎と。それから、窓の傍に座って、そっちを見上げながら笑い返している沢野がいた。
「・・・」
(なんだ、先に来てたのか)
先に、来ていた、というか。
いたんだ。
こっちに、初めから。5時間目が終わった瞬間から。
「・・・」
胸の辺りがむずがゆくなった。
楽しそうに笑ってる2人を見て、何だか虚しくなった。
(俺が宮崎をフったら、宮崎は他の人を好きになる)
当たり前のことを頭に浮かべて、2人を見ながら首を傾げた。
(他の人を好きになる)
居心地の悪さを感じた。
(誰を?沢野・・を?それとも、本原?救馬?)
ザワザワし始めた。
(・・・嫌だ)
人を好きになれないくせに、宮崎が他の人を好きになるって考えたら。
一瞬で俺は、その場にいられないくらいに。
その考えを嫌悪した。
そうして、
「あ・・・」
誰も好きになれないのに、自分以外の人を好きになる宮崎が見たくないと。
初めて思った。
だから気がついた。
(だから、死んだんだ)
どうしてあの時、皮肉にも青空が自分の目の前に広がったのか。
どうしてあの時、俺は止められなかったのか。
どうしてあの時、笑ってくれたのか。
きっと、こう思わせる相手がいたから、兄貴は自殺したんだ。
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