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64話「止まってくれた」
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指絡め、離さないまま。
走り出していた。鞄はまだ教室にあって、千田は教室に帰って来ていない。俺は走り出していた。
ホームルームが終わって、部活に行く宇田っちやさっさと帰る皆よりも早く教室を出て、走っていた。
ホームルームの最中、1人で考えてみたんだ。
千田がどこにいったのか。
(屋上)
何となく、すぐに答えは出て。ホームルームが終わった瞬間、屋上を目指した。鳴り響くサンダルの音。大きめのそれは脱げかけて、転びそうになって。バッタバッタと五月蝿く階段に響いた。
「はあっ・・はあっ・・はあっ」
喉がヒリヒリする。空気を吸うたび乾いて痛い。
じわじわと汗が染みて来た。
急いで急いで駆け上がると、そのままの勢いでドアノブを掴んで取っ手を回す。
「っ、」
ドアを押し開けた瞬間、目の前に広がったのは青。
真っ青な空。
雲1つないそこと、視界の下の方に緑色のフェンスがチラチラと映る。
「はあっ・・・はあっ・・」
酸素が欲しくて、大きく、早く、息をする。
校舎内と違って冷たくて、埃っぽくない新鮮な空気が肺いっぱいに詰め込まれた。
掴んだ取っ手に俺の体温が移りだして。
体は暖まっていて、シャツは少し湿った。
青い空の下に、人がいる。
屋上の地面の上に、人がいる。
短くて黒いきれいな髪を風に遊ばせて。
スラリとそこに立った人。
「・・・」
一歩一歩、緑色のフェンスに近づいていく後ろ姿。
それが一瞬、
「千田・・?」
ほんの一瞬、消えそうに見えた。
見えた瞬間、もつれながら足が前に出て、前のめりになって、変な格好で走り出す。
「千田ッ!!」
すぐに追いついたその人の腕を掴んで引いた。
自分の方に、強く。
ああ、手加減が出来ないから、きっと掴んでいる手は痛いだろう。
俺の焦った声を聞いて、千田は驚いたように振り向いた。
ああ、このくらいでいいのかもしれない。
コレでいいのかもしれない。
「よ、良かった・・」
「宮崎・・なに・・ど、どした?」
このくらいの距離で。
遠くなろうとしたら、引き止めて。
そしたら止まってくれる。
そんな関係で、いいような気がする。
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