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66話「話してくれた」
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千田が、ポツポツと色んなことを話し始めてくれた。
「考えたら・・苦しくて。死にたくて・・」
「し・・死ぬとか、考えんなよ」
どこまで触れたらいい。
どこまで触れていい。
千田の体に、千田の心に。
一体どこまで近づいて、どこまでなら揺れても許されるのか。
それが分からない。
掴んだままの手は、そのままにしておいた。
嫌がった感じは無い。それに今離したら、また消えてなくなってしまいそうに思えた。
「俺の・・お兄ちゃんは、本当に、アセクシャルで・・」
「え?」
突然何を言い出すんだ。
でも、聞いてほしいと、そういう目を向けられて。
見返して、黙るしか無かった。
「検査・・あるんだ、20歳越えると・・それで、」
「・・・」
「20歳になったお兄ちゃんは、受けたんだ、検査・・そしたら、アセクシャルって、結果が出て」
「・・うん」
「俺、ついて行ったんだ、その検査結果が出る日、病院に。お前もかもしれないって、お兄ちゃんに言われてから、ついて行った。親はどっちも、お兄ちゃんと俺のこと信じられないみたいで・・だから、俺が行った。でも、そしたら・・結果聞いた、その足で、病院の屋上に行って・・お兄ちゃん、俺の・・」
「・・・」
嫌な汗が背中を流れて行った。
いつの間にか緊張し切った体から、脂汗と冷や汗が混ざり合ったそれが吹き出していて。
力の入った手は、やっぱり痛いくらいに千田の手を握っていた。
でも同じように、千田の手も力が入っていて。
震えていて。
何故だか同じ人間なのだと安心した。
「俺の目の前で、飛び降りたんだ・・・」
「あ・・」
自殺の原因が、今やっと分かった。
千田のお兄さんは、千田と同じアセクシャルで、それが原因で亡くなっていたんだ。
「兄さんが、それだけで死ぬなんて思えなかったけどでも・・やっと、死にたいって思うくらいに、自分ってものが苦しいんだって分かった」
千田がこっちを向いて、自分の腕を掴んでいる俺の手に触れた。
グッと力を入れて。
こちらを向いた顔は、泣いていた。
「苦しいわ・・好きになれないって」
好きになろうと、してくれていたのだろうか。
俺はそれだけですごい嬉しいのに。
なのにできないからって、死のうとする程苦しんでくれたのか。
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