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「…………あ、ごめんなさい」
匂いを嗅ぎたくて先生に触れていた。抱きつくように。友達にも距離感なさすぎると怒られたことがある。自制。できたらとっくにしてんだよなあ。それにしてもなんの匂いだろう。香水をつけるような人には見えないけど。
一歩引いた俺に、先生は杖を持っていない方の手を伸ばし、俺の頬を撫でた。それから、
「……………」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………じゃあ、僕は仕事戻るけど。まだ見たいところある?」
「……あ、………えと、大丈夫です。今日はもう、帰ります」
「そう。じゃあ、また今度」
「はい」
先生が部屋に戻ったあと、急いでこの屋敷を出る。スリッポンで良かった。スクーター。なかなかエンジンがかからない。くそっ。ようやく走り出す。信号。大通りに出れば車や人のざわめき。風が頬を冷やす、はずなのに熱がさめない。夢を見てるみたいだ。見慣れたコンビニの看板。大型トラック。どこかの学校のチャイム。黄色い外装のラーメン屋。
どうして先生は俺にキスしようとしたんだ。
角をまがる。住宅街。コンクリートの塀。小学生が道路で遊んでる。公園。緑。足に力が入らないような気がする。そんなことはないけど。現実感。太陽はまだ眩しい。一瞬カレーの匂いがした。安アパートの前の三輪車。むこうで野良猫が横切った。誰かの笑い声。まっすぐの道路。
なんで、やめたんだ。
「あー、もう、……」
思わず独り言。
スクーターをとめる。考えたくない。というか夢だった気もする。でも違うんだろう。頬が熱い。
空をあおいだら、アホみたいに一面に青かった。
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