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羽
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なおはいつも首からカメラをぶら下げていた。しかも一眼レフだよ、かっこいいね。最近の高校生ってお金持ちなの?ルミックスの文字が目立つ青い一眼レフ、それを弄るのが癖らしく、趣味らしく。
なお、は凡人だ。凡人だし、なんの面白みもないけれど、たった一つだけ素敵なところがある。それは直向きでまっすぐな性格。そのおかげなのか、えらく綺麗な写真を撮るんだよね、個人的にはどんな写真家よりもすごく魅力的な写真をさ。
「ねぇ、どうしてなおは風景しか撮らないの?」
カメラをずっとぶら下げていることが気になって、一度どんな写真を撮るのか見たいな、と言うと、案外あっさりと見せてくれた。何百枚もある写真は全て風景や花やモノばかりで、なぜか人は一人も写ってなかった。…ううん、被写体になる人間がいないだけで、人間を風景のように切り取っていた。それが印象的でね、思わず聞いてしまったわけですよ。必要のない情報を、自ら求めてしまったのは久々だった。いつか、いつかこの子も俺に、魂を持って行かれるというのに。ただの獲物の個人的な趣向なんて、本当のところどうだっていいはずのに。なおは、すこし、他の人と違う気がしてならない。
「先生は、人間に魅力を感じますか」
齢15にして、そんな言葉を吐くのかよ。最近の子はどうなってるんだ、と苦笑が漏れた。きっといままで育ってきた環境がなおをそう思わせてるんだろうな。
「魅力的だよ。いろんな形があってね」
「……形?」
いけないなぁ、俺。口が滑った。
魂にはいろんな形がある。綺麗な丸もあれば、四角もあれば、へんなぐちゃぐちゃなものもあれば。ソレ、は俺の目には見えるんだけど、人間には見えなくて当然。羽のように背中についてるんだよ、肩甲骨からね。寿命が近づけば近づくほどそれは小さくなっていくんだ。頃合いをみて、俺はその魂を食らうという感じ。そしてそれを栄養として生きてるって感じ。…生きてるは、語弊があるな。存在している、が正しいかもね。なおの背中には、ほんとに羽のような。天使の羽のような形の魂がくっついている。初めて見たなぁ、そんなユニークな魂は。でっかい背中に小さな羽の形をした魂。不恰好で可愛いよ。
「ンー、体型とかそういうことだよ」
「変なの。そんなの違って当たり前なのに、みんな違う人間なんだから」
「そうだね。だけどそんなこと言っちゃうと勿体ないなぁ。この世に全く同じものなんて、一つも存在しないから綺麗なんじゃない?」
魂の形も、その器も、違うからいいんだ。違うから、好きなんだ。
俺は人間がとってもすき。あんまりはっきりと区別はできないけど。似たような人間がおおいけど。でも人間はすき。
俺のような死神はこの世にたくさんいるけれど、死神は人間の魂を喰らえば消えることはないんだ。ただ、人間は違うでしょ?
与えられた時間は不公平。いつ死ぬかもわからないのにこの世に産み落とされて、みーんな迷子だよ、この世の中ってのは。それでも、生きて、生きて、生きて、生きて、生きるんだ。人間も、他の動物も、花も、木も、全部。どうして生きてるの?ときかれて、明確な理由を答えられる人間ってこの世界に何人いるんだろうね。
明日死にますよ、といわれて納得できる人間がこの世界にはいるのかな。
どうして命に終わりがあるのか、考えたことはある?
「先生は、変わってるっていわれますよね」
「ンー、そんなことないけど?」
「…人間って、どうしても好きになれないんですよ。被写体としては、ですけど。だってほら、写真で見る人間と、その人間の本心や性格は必ずしも一緒とは限らないでしょ。」
「それが面白いのに。」
「俺にはよく、わかんないですね」
まだまだ子供なんだよキミはね。
そう、子供なんだ、キミは。
だから俺のレンズに映る君の背中に生えた羽がね、ちいさく、ちいさく、ちいさくなっていくのをみると、とても心苦しいよ。
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