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午前の授業が終わると、すぐに荷物を持って教室を出た。
思ったりよりも過ごしやすかったため、また白石くんに「屋上行こうぜ」と提案された時はすぐに頷いた。
室内はどこか酸素が薄くて、人も多いから窮屈な感じがする。出来ることなら人気の少ないところで過ごしたかった俺は、結構屋上を気に入ってしまった。
昨日のように階段を降りて行く下級生とすれ違いながら、階段を並んで上がって行く。
流石に2日連続で千里と遭遇はしないだろうなんて思いつつ、なんとなくあたりを見回しながら白石くんの後を付いて行った。
屋上のスチール製の扉のドアノブは、捻って開けようとするとギィィィッとおばけ屋敷で鳴りそうな音を立てる。
老朽化しても、どうせあんまり人が来ないところだから工事も修理もされないんだろう。
扉を捻って一歩屋上に出れば、風がブワッと頬を打って髪が乱れる。
風に押されたドアが、バタンっと大きな音を立てて閉まったのを見て、昨日から今の今まで忘れていたある疑問が浮かぶ。
「 ……白石くん、」
「 んー」
「 屋上って、生徒は立ち入り禁止なんじゃ……」
「 あー、まぁそうだな。」
俺の方を見ずに、屋上の端っこの方にドカっと腰を下ろしながら白石くんがそう答えた。
「だからなに?」とでも言いたげなキョトン顔で見上げられて思わず顔が引き攣った。
悪いことをしながらまさか悪気の無い顔をされるなんて。
「 見つかったらだいぶ怒られるんじゃないの……俺たち」
「 大丈夫って。先生がこんなとこに何しに来るんだよ。」
笑いながらあまりにもきっぱりと言うものだから、なんだかこっちが言い宥められてるようで困惑する。
当の白石くんはちっとも悪びれる様子なんか無くて、俺だけが内心ヒヤヒヤしているようだ。
「 ていうか立ち入り禁止なのになんで俺たち入れたの? ばっちりドアから入ってきたよね。めっちゃ出入り自由じゃん。」
「 あぁ、それは………」
と言って、白石くんは何やらポケットをゴソゴソしている。
「 じゃーん」という抑揚のない声とともに、俺の前にヒラヒラと突き出された銀色の細長い物体。
太陽の光が反射してキラリと光り、一瞬なにか分からなかった。
白石くんがニヤリとした顔で
「 合鍵 持ってるから 」
と言った時は聞き間違いかと思った。
「 あ、合鍵……!? そんなもんどこで 」
思わず変な声が出た。
そんなサラッと言うことじゃない、絶対。
そんなんバレたら一発停学じゃんか、、、、
「 絶対誰にも言うなよー、」
「 いや、言わないけど…」
内容による、と付け加えようかと思ったけど
よく考えたら一緒にここに来ている時点で共犯なのでは…?
と急に不安になったから大人しく話を聞こう。
「 去年の文化祭の時、屋上のフェンスから垂れ幕を降ろす仕事があって、ちょうど実行委員の人手が足りなくて俺が駆り出されたの。そんでその時色んな鍵がジャラジャラついたキーケース預かってたんだけど、たまたま屋上の鍵だけ2個付いてるの気付いて、こっそり一本拝借しちゃった……」
「 バカすぎる………」
「 だよなー、流石に鍵1本無くなって返ってきたら先生も気づくべきだよ、ほんと」
わーお。自分のことじゃないと思ってるみたいだ。
きっと何を言っても反省する気はないんだろう、悪ガキめ。
どんな風に育ったらこんなやんちゃな思考回路が形成されるんだ。
まぁ彼らしいけども。
「 この鍵、いつもは俺のメインバッグに入れてるから。
小さい方の内ポケットな。ここ使いたい時は勝手に取って自由に使えばいいよ、どうせ誰も来ないし。」
鍵を制服のポッケに入れながら、白石君からそう言われたものの、果たしてその鍵を俺が使う時は来るんだろうか。
いや、多分ないな。バレたら一発停学に違いない。
確かに屋上はかなり気に入ったけどリスキーすぎる。
1人で悪さする度胸もないし。
複雑な気持ちで「 そうだね 」とだけ答えておいた。
俺が苦い顔しているのなんかこれっぽっちも気にしている様子はないようだ。彼は呑気にその場に座って、弁当箱を開けながら「おぉ、うまそ 」とその中身の彩りに驚いていた。
俺も隣に腰掛けてから、白石くんの手元を見ると、
これまた鮮やかで美味しそうなお弁当だった。
エノキをベーコンで巻いて炒めたものと、小さいハンバーグを蓮根で挟んで揚げたもの、それからちくわの中にきゅうりを入れて斜めにカットしたもの、他にもちょっとした野菜などが隅まで敷き詰められていて、すごく美味しそうだ。
そしてやっぱり真ん中に置かれた出汁巻卵がきらきらと輝いて見えた。
俺も思わず「わぁ」と小さく声を発してしまう。
毎朝こんなお弁当つくるのすごく器用だなと思う。
一つ一つ手作りなのだろうか。ますますすごい。
「お前はまた菓子パンだけ?」
「 ううん、今日はおにぎり」
昆布のやつと明太子のやつ。
どっちから先に食べようかな、なんて考えていると
隣にいる白石くんが「うえ」と変な声を出した。
「なに、どしたの」
白石君は眉間にしわを寄せて弁当箱の中を恨めしそうに睨んでいる。
「 ブロッコリー、俺嫌いだから入れんなっていつも言ってるのに 」
こどもかよ……
「 緑が足りないなら別の野菜にしてくれればいいのに、なんで敢えてブロッコリーなんだよ、嫌がらせに決まってる……」
「 色どりだけじゃなくて、ちゃんと栄養バランスも考えてくれてるんだよ。ダメだよ、食べなきゃ。」
「 ブロッコリー食わなきゃ死ぬわけでもないだろ……」
ムスッと頬を膨らませながら、箸を乱暴にブロッコリーを刺す。なんてお行儀の悪い食べ方だろう。
そして有ろう事かそのまま俺の方に箸を持ってこようとしたので慌てて首を横に振る。
「 いやいや何俺に食べさせようとしてんの、ダメだよ、食べないからね 」
「 お前が食べないなら残す。いいのか、罪のないブロッコリーがどうなっても」
「 それ……果てしなく君が言っちゃダメなセリフだよ」
「 さぁ、観念しろ 」
「 いやでーす、俺に白石くんの好き嫌いの片棒担がせようとしないで下さーい。」
俺がふいっとそっぽを向くと、白石くんは箸の先端に刺さっているブロッコリーを見つめて嫌そうな顔をする。
なんだその顔。めっちゃブスじゃん。
嫌いな野菜でも、出されたら食べられる程度にはならないと大人になってから困るぞ。
そりゃもちろん食べなくても死にはしないだろうけども。
うー、と子どもみたいな呻き声を上げていた白石くんが、不意に目をパチっと上けて俺を見た。
そして口角を持ち上げてにやりと笑う。
あ、絶対なんか悪いこと企んでる顔だ。
「 もし食べてくれたら出汁巻あげようか」
なるほど。
「 ………そうきたか 」
なんて汚い手口だ。
確実に俺を食べ物で買収できると思ってる顔だ。
俺が白石くんちの出汁巻が好きなことを知っておきながらこんな手段を使うなんて非道にもほどがある。
がっくりと頭を下げて成す術を持ち合わせてない自分を恨む。だってこのままじゃないほんとに罪のないブロッコリーが無駄になってしまう。
仕方ない。これは正しい行為なんだ、と自分に言い聞かせながら「今回だけだからね」と白石君に念を押す。
「 よっしゃ。よかったなぁブロッコリー。桜木の食い意地が張ってて 」
「 今のちょっと聞き捨てならないよ」
ムッとしながら白石君に向かって口を開けると、さっきから箸に刺されっぱなしだったブロッコリーが口の中に入ってきた。弁当箱に入っていたもう一つも、ヒョイと口の中に入れられて彼の手元のおかずからは緑が消え去った。
もぐもぐと噛んでいると、ふわっと香ばしいかおりが口の中に広がった。
ただの茹でたブロッコリーだと思ったが違うようだ、なんだかザクザクとした食感もする。
あ、多分ピーナッツだ。
砕いたピーナッツとごま油で和えている。
すごい、意外な組み合わせだけどめっちゃ合う、美味しい。
多分彼のお父さんは、白石くんの好き嫌いを把握して、少しでも食べやすいように美味しく料理しようとしたんだろう。
そう思うと途端に自分と目の前でふんぞり返っている男が情けなく思えて心の中で謝罪した。
ごめんなさい、俺が食べてしまいました。
でもめっちゃ美味しかったです。
「 もー、今のめちゃくちゃ美味しかったよ。絶対白石くんが食べるべきだったよ、ばか〜。」
「 そんなん知らんわ 嫌いなの分かってて入れる方が悪い」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向かれる。
なんじゃこのくそガキは。
「はぁ、約束通り出汁巻きもらうからなー 」
「 おー。くえくえ 」
白石くんは今度はだし巻き卵を1つ掴んで俺の口元まで持ってくる。
風になびく横髪が邪魔で、指で耳にかけながら口を開ける。
少しだけ舌を出して、口で出汁巻きを咥えて箸から奪う。
じんわりと広がる絶妙な旨さを感じながらゆっくりと咀嚼していると、白石くんが俺の顔をジッと見ていることに気がついた。
「 ……………そんなに見られてると食べにくいんだけど」
「 いや、…………………なんかエロいなって」
「………ッ!?」
まさかの白石君の発言に驚きすぎて、対して咀嚼してなかった卵焼きを中途半端に飲み込んでしまいそうになる。
喉の奥の変なところに入って、たまらずゲホゲホと咳き込んでいると、だんだんと苦しくなってきて目にうっすら涙がたまる。
ゆるさない。
「うわっ、きたな……」
「 だ、誰のせいだと…うえっ、ゲホッ…ケホっ」
「 でてるでてる、たまご口から出てるから」
「 し、しぬかと思った、、、」
卵焼きで喉詰まらせて窒息死なんて絶対いやだ。
なんとか口の中を空にして、おにぎりと一緒に持ってきたペットボトルのお茶を一気に喉に流し込んだ。
はーっと息を整えて、制服の袖で軽く口元を拭う。
どれもこれもこの人のせいなのに、当の本人は俺のことを見て苦笑している。
「 思ったことすぐ口に出すのよくないよって、言ったじゃん、ばか」
「 だからいい意味だって」
「意味わかんないよ」
こんな調子じゃこれから何言われても「いい意味で」って付け加えられそうだ。
まぁ本気で不快なわけでもないからそこまでとやかくは言わないけどさ。
「 なんかさ、人がもの食ってる時ってエロくない ?」
突然白石くんがそんなこと言い出すもんだから、返す言葉に困る。
弁当片手にすごく真剣な眼差しで言うことじゃないと思う。
とりあえず「はぁ」と気の抜けた返事だけした。
「……どの辺がよ」
「 いや、どの辺がって聞かれると具体的には答えられないんだけど、なんていうか…生々しい感じしない? 」
俺が真顔で話を聞いてるものだから、一人で喋ってて不安に思ったのか、「え??俺だけ?」と聞き返される。
「 人がご飯たべてる時いつもそんなこと考えながら見てたんだ……へぇ、、」
ちょっとさっきの仕返ししてやろうと思って、わざと顔をしかめてみる。
「 いや、違うって。そんなのただの変態じゃん。
なんとなく、桜木みてふと思ったんだよ」
「 それはそれで複雑すぎだわ」
「 なんだよ〜、、、ていうか、最近の男子高校生なんて常にエロいこと考えてんじゃねーの」
流し目でこちらに問いかけられて一瞬どきっとする。
このイケメンが…。
「 白石くんて、彼女いなかったっけ」
「 今はいねーよ。部活もいよいよ2年主体になってくる頃だし、別にめちゃくちゃ欲しいってわけでもないかな。まぁ、好きな子でもできれば別だけど」
「今は」ってことは過去……いや、もしかしたら最近までいたのかもしれない。
そりゃそうだよな、たしかに白石くんはめっちゃイケメンだし、運動もできるし。こんな人が近くにいたら、女の子はきっと好きになるまではいかなくても意識はするだろう。
男女問わず人気があるのも事実だろうし。
「 桜木は?」
不意にそう聞き返されてハッとする。
たしかにこの会話の流れだと俺にも話を振られるのは分かってはいたけれど。
でも同級生の男子とこんな会話をすること自体が久しぶりすぎて、どきどきと緊張してきた。
サラッと流せるような返答をしたいけど、そんなスキルはあいにく持ち合わせていない。
白石くんが俺の答えを待っているように、ジッと見つめてきたので、決まりが悪くなってつい小声になってしまう。
「 いないよ…ていうか。いたこと…ない」
あー、もう絶対俺今顔赤いよ、バカ正直に言わなきゃよかった、………
赤くなってうつむくと、白石くんは目をぱちぱちとさせて長い沈黙のあと「まじ?」と驚いていた。
「 まじ 」
「 いやー、絶対嘘だろ、言っとくけど俺、実はお前が勉強できるのも運動出来るのも知ってっからな。それに、そんな顔しといて女が寄ってこないわけないだろ」
「 いやいや、買いかぶりすぎだって ……」
「 ……え、もしかしてマジでいってんの」
「 だからそう言ってるじゃん 」
一体白石くんには俺がどんな風に映ってるんだろう。
俺みたいなクラスで空気扱いされている暗い男を彼氏にしたい女の子なんて、そうそういないと思うけど。
自分で言ってなんか虚しくなってきたな。ちくしょう。
「 ふ〜〜ん。まぁ桜木がそういう気が無いだけで、作ろうと思えばすぐ彼女くらいできんじゃね」
なにを根拠に言ってるんだか………
適当な言葉になんの期待もなく、
「 さぁね 」と軽く返事をすると、なにやら白石くんが急にニヤッと片方の口角を上げて意地の悪そうな笑顔になる。
「 え、なに、今は右手が恋人だから要らないって?」
右手……?
なんのこと………、と思って数秒間真顔になって考える。
思わずキョトンとした俺の顔をみて、向こうが可笑しそうに笑っているから、いい意味ではないんだろうな、と考えていると、ふと彼が言ってることの意味が理解できた。
「 ………………なっ、……!下ネタ…!?」
「 ははっ、気づくのおっそ、ピュアだなぁ…お前」
そう言ってケラケラと笑われたけど、
白石くんがあまりにもサラリと言うから理解が遅れただけで、別に純粋でもピュアでもない。
かといって自分で「純粋じゃない!」って否定するのもなんかおかしいし、笑われているのになんて返せばいいか分からなくて、頬が引き攣った。
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