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「 部活の時に本城先生が煩いんでずっと無視してたんですけど、無視極め続けてたら職員室まで呼び出されちゃって、酷くないですか、たかが髪の色で。しかも俺染めてないのに」
「 おいおい、俺が隣にいるの忘れてないか。俺だってめんどくさいけどこれが仕事だからしょうがないだろ」
サラリと先生の悪口言った零くんに、すかさず目の前にいた本城先生のツッコミが入る。
そ2人のやり取りにくすりと笑ってしまったが、零くんの言葉の中に気になる点が1つあった。
「 ……いま部活って言った?零くんなにか部活入ってるの?」
「 あぁ………美術部です。」
「 へぇ、絵描くの好きなんだね、すごい。」
俺がそう言うと、零くんは胸の前で両手をひらひらさせて「それほどでも」と謙遜した。
美術部部員は圧倒的に女子が多いから、男子部員は貴重だろうな。絵が描ける男の子って今まで身の回りにあんまりいなかったから素直に感心する。
本城先生はニヤッと笑って、肘で軽く零くんの腕を小突いた。
「 なにが、『それほどでも』だよ。
なぁ桜木、知ってるか、村崎はこの学校に美術の逆推薦で入ったんだぞ」
「 えっ 」
逆推薦……!
俺も千里も一般入試だから推薦入学者のことはよく知らなかったけど、うちの学校の推薦入試の倍率はそれなりに高いって聞いたことがある。おまけに逆推薦なんてもっと貴重だ……。
「 今の美術部の間じゃ村崎はちょっとした有名人だよ。国内のコンクールは総ナメで賞取りまくってたから。……
まぁ美術部の顧問が生活指導の俺だったのは運が悪かったな。常に監視下に置かれてるもんな、村崎。」
ニヤッと笑いながら先生がそういうと、零くんはふいっと顔を横に向けて口を尖らせる。
「 煩いですよ。そんな話どうでもいいのでさっさと地毛届けとやらをください。」
「 はいはい、ほんとお前は俺に対して口が悪いよな……ったく、ちょっと待ってろ。桜木の分も取ってくるからお前もここにいろよ。」
先生は俺たちにここで待つように指示したあと、自分のデスクの方へ向かっていった。
職員室の入り口には俺と零くんだけになって、少し静かになった気がした。
先生が居なくなって都合がいい。
零くんを見た時から気になっていたことがある。
そっと零くんの後頭部に手を当てて、髪をかき上げるように指で持ち上げる。
昨日保健室であった時は、この子は頭にはぐるっと一周する包帯が巻き付けられていて、痛々しかったのだ。
今はその包帯は取れているみたいだけど、頭の怪我は本当に危ないから油断しないで安静にしていて欲しい。
「 包帯取れたんだね、傷はもう大丈夫なの?」
一応職員室なので、あまり大きな声を出さないよう小声で尋ねる。
「 はい、俺がダウンしてたのは8割別の理由なので心配ないです。頭だったからちょっと血が沢山出ただけで、傷自体は酷くなかったっぽいので、…」
「 そっか、よかった。ちょっと零くんのこと気になってさ、外から様子見てたら先生に捕まっちゃった」
怪我の状態が気になっていたので、そこそこに元気そうな零くんが見れて少しだけ安心した。
「別の理由」と言ったのがちょっと疑問が湧くけれど、先日会ったばかりだし、そこまで親しくない関係なのに深く聞くのもどうかと思った。
「 元気そうで安心した」と言って、なるべく柔らかい表情を作って笑うと、零くんはゆっくりと口角を上げて目を細めた。
「 俺のこと気にしてくれたんですか」
上目遣いで見られて、どきっとする。
薄く開いた綺麗な瞳に見つめられて、恥ずかしくなってつい目を逸らしてしまった。
とんっ、と寄り掛かかるように俺の方に体重を預けてきて、零くんの肩が俺の腕に触れる。
こんなさらっとスキンシップをされたらどうして良いか分からなくて本当に戸惑う。
場所のことなんてちっとも考えてないんだろうな。
怖くて顔を上げられないけど、ここ職員室だからね。
でもこうやってスルリと懐に入り込まれるとどうしようもなくのだ。
はっきりと拒絶もできないし、人に流されやすい性格の所為か特に不快感や嫌悪感も感じない。
パーソナルスペースが狭すぎるっていうのもあるんだろうな。
「 うん……気にしたっていうか、心配だったから」
俺がそう言うと零くんはへらりと笑う。
「 この傷のおかげでりょー先輩にも会えたし、ちさとくんにもっと近づけた気がするし、俺にとって良いことばっかりなので気にしないでくださいね」
「 ………」
昨日も思ったけどやっぱりこの子ちょっと変わってる。
本心が読み取れないというか、何が本当か分からないというか。でも決して笑顔に違和感があるわけでもなければ、胡散臭さを感じるというわけでもないのだ。
掴み所がなくて扱いにくい、でも近づいて来られれば拒否することなくさらりと受け入れてしまう。
すごく不思議な感覚だ。
「 ところでりょー先輩は大丈夫なんですか」
「 え、なにが」
急に尋ねられて、ぽかんとする。
零くんは、俺の手首を掴むとひょいと顔の高さまで持ち上げて、まじまじと見つめた。
あぁ、この手のことを言ったのか。
「 ちさとくん器用ですね 」
包帯を見ながら、零くんがポツリとそう呟いたので一瞬何のことを言ってるのか分からなかった。
けれどすぐにハッとして、驚いて零くんに聞き返す。
「 なんで千里がこの包帯巻いたって知ってるの?」
「 りょー先輩は自分のことになると結構雑そうなのに、なんかこれはすごい丁寧だからもしかしたらそうかなって。やっぱりそうなんですね」
「 へぇ、すごい、よく分かるね」
「 ………ちさとくんのこと好きですから。りょー先輩も好きな人ができたら、その人のこと手に取るように分かるようになりますよ」
「 はは、じゃあ千里は今零くんの手に取られてるわけだ」
「 なんなら転がしてますよ 」
こうやって……。と言って、零くんが手のひらで何かをすくうジェスチャーをして、くるくると回している。
そして顔を見合わせて2人で同じタイミングで吹いた。
零くんは自分で言ったにも関わらずツボにはまったようで、声は出さずに片手で額を押さえて肩を震わせている。
可愛すぎる。
良かった、千里の近くにこういう子が居てくれて。
多分千里は自分と同じような気が強い子はあんまり好きじゃないと思う。だからと言ってなんでも自分の意見に従うイェスマンもつまらないとか言いそうだ。
零くんみたいにちょっと掴み所がなくて、扱いにくいくらいの子の方が、逆に良い刺激になって一緒に居て楽しいんだろうな。
表では気を遣ってくれて、実は裏では主導権を握ってくれるような頭の良い子を求めていたのかもしれない。
よく分からないけど、あいつが零くんと一緒に居ることを選んでるんだから、多分零くんのことがそれなりに好きなんだと思う。
千里は一見人の好き嫌いなさそうで、本当は1番差が激しいタイプだと思ってる。
長年見てきたから、あいつの好き嫌いの判断基準も何となくだけど分かるし。
零くんが腕を回してきゅっと密着してきた。
小動物みたいで可愛いけど、瞳は猛禽類のように鋭い。
「 昨日も言いましたけどー、俺はりょー先輩のことも好きですからねー」
そしてまたこんな反応に困る言葉を掛けられる。
ちょっと拗ねたように語尾を伸ばして、甘えるような言い方をされれば誰でも悪い気はしないだろう。
自分より少し低い位置にある彼の頭を、優しくぽんぽんと撫でて笑いかける。
「 じゃあ俺のことも手に取るように分かる?」
「 そりゃあもう、俺は昨日先輩と知り合う前から先輩のこと見てましたから」
冗談で言ったつもりなのに、120%ガチなトーンで言葉を返されて戸惑う。
「 えー、、、」
彼の言葉にどきりとした。
見られてたなんて知らなかったし、見ていただけで俺のことが分かるなんて、そんなことあるんだろうか。
この子が言うと、たとえそれが冗談だとしても妙に真実味があると言うか、本気に聞こえるというか。
なにがジョークでなにが本当か分からない。
零くんは「ふふ」と笑って、俺の腕を掴む手の力を強めた。
「 だから今こうやって、先輩と話して先輩に触れられるのがすごく嬉しいです」
抜群に整った綺麗な顔の100%のスマイルでそう言われたら、きっとみんなドキドキしてしまう……はず。
年下の男相手に何ときめいてんだよ……と自分でもちょっと引きながら、もう苦笑いするしかなかった。
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