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ー睦月ー
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ーではこれでー
ーいつも感謝しているー
ー感謝ねぇー
ーしかし何故こんなに容易く・・・が手に入るんだ?-
ー企業秘密かなー
ー確かに、知らない方がいい話だー
ー長居は無用、またねー
ー金はいつものようにー
ー毎度ー
暗い地下室を出て、明るい太陽の陽射しに背を向けた
サングラスをかけた黒く艶やかな長い髪
太陽に反射するクロスのピアス
綺麗な横顔は無表情のまま真っ直ぐ前を向いていた
「おっ、楓!珍しいな」
「・・・・・・・・・」
「おいおい、無視か?」
「俺は低血圧だから機嫌が悪い」
「あのさ、今何時だ?もう3時だろ」
「へぇ」
「で、こんな所で何を?」
「別に」
「何だよ、デートか?」
「こんな所でデートするような悪趣味ではないけど」
「だよな、じゃ何をしていたんだ?」
頭が痛い
普段会いもしない奴が何故今ここにいるんだろう
しかもこいつは意外とうるさいし、友達になった覚えも無いけど
「葵はどうしてここへ?」
「俺?知り合いに聞いたんだけどさ、この辺に古いレコードを扱う店があると聞いて・・・でも無いんだよな」
「そう」
どうせまた騙されたんだろう
この辺りにそんな店は無いし、そもそも普通の人間は近付かない場所
日本のスラム街みたいな所だしね
「お前知らない?」
「知らない」
「そっか・・・やっぱ騙されたのかな」
「かもね」
「まっ、いいや!しかし寒いな・・・そうだ、お茶でもしない?」
葵の唯一いい所は騙されても明るい所かもね
「そんな誘い方で着いて行くとでも?」
「とにかく寒すぎる、行こう」
「・・・・・・・・・・・・」
強引すぎる
俺はさっきまで違った意味で汗をかいていたんだけどね
だから時折吹き付ける風が気持ちよかったのに
でも、断ったら面倒臭くなりそうだし付き合う事にした
こんな場所でもカフェ・・・いや喫茶店ぐらいはあったらしい
カフェと言うにはほど遠い、古ぼけた昔ながらの喫茶店
色の抜けたサンプルで出来たホットケーキが悲しく見えた
「やけにこじんまりした店だな」
「別にいいんじゃない?」
「まぁな・・・俺はコーヒー、お前は?」
「トマトジュース」
「えっ?」
「一番安全そうだしね」
「失礼な奴だな、まぁいいけど」
こんな店なら缶に入ったトマトジュースが一番安全
「うわっ、ぬるっ!」
「・・・・・・・・」
やはり思った通りだった
運ばれて来たコーヒーはインスタントでしかも湯気すら立っていない
トマトジュースは思った通り、さっきまで缶に入っていたらしい
少し錆びついた味がするけど気にはならない
「やれやれこの店はハズレだな、でも暖かいから暖房代って事か」
「客もいない店に何を求めているのか」
「だな」
葵はぬるいコーヒーを一口飲み、年代物の漫画を手に取って読みだした
「で、お前は今何してんの?」
「大人しく漫画を読んだら?」
「読んでる」
「器用だね」
「こんな話をするのは申し訳ないけどさ、母親が亡くなった直後お前が消えたからさ」
「旅行かな」
「冗談はいいから・・・元気なのか?仕事は?」
「まるで父親」
「ごめん、でも心配していたんだ」
「でも、今はこうして一緒に古びた店で漫画を読んでいる」
「そうだけどさ・・・そうだけど」
「昔の俺と今の俺・・・どこが違うの?」
「違わないさ」
嘘つきだね
今の俺は昔の俺じゃない
気付いているのに何も言わないのは優しさでも何でもない
「でも、元気そうで安心した」
「そう」
「あのさ、今の仕事ぐらい聞いてもいいだろ?」
「葵は有名になったね」
「お前だってっ!・・・ごめん」
「いいよ、そうだね・・・俺だって怪我をしなければ今頃一緒にバンドを組んでいたはずだしね」
「ごめん」
そうだね
俺だって夢ぐらいはあったかな
義理の父親に腕を壊されるまではね
その夢の時間が綺麗なブルーだとしたら、今の俺は光を通さない黒だね
生活は出来るけど二度とギターは弾けない体
病院で目が覚めた時から俺の周りは黒に染まっていた
「ちゃんと生活は出来てるのか?」
「ご心配なく」
「そっか、よかった」
これ以上の会話は無意味
俺は立ち上がり万札をテーブルの上に置いた
「何?」
「先に出るね」
「待てよ!誘ったのは俺だし俺が払う」
「借りは嫌いだから」
「じゃ、おつりを」
「バイバイ」
「楓・・・また会えるよな?」
その言葉を無視して店を出た
外は相変わらず明るくて吐き気がした
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