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「お、おい。なんだその態度は――」
七海の態度に呼び止めようとしたが、ふと後方で生徒達が真っ青な顔をしていることに気付く。
距離があるから内容は聞こえていないだろうが、おそらく俺と七海が何か口論しているのは分かっただろう。
大方俺が説教をしていて七海が口答えをしているようにでも映ったのだろう。
見世物ではないとギロリと一瞥すると、慌てたように皆視線を逸していく。
仕事は山積みで七海にばかり構っていられないし、一つ息を吐き出して職員室へ戻ることにした。
歩きながらモヤモヤと先程の会話を思い出す。
やはりどう考えたって俺は間違っていない。
アイツの勉強効率が上がるように自分なりに色々と調べて、助言してやっただけだ。
それなのになぜあんな不機嫌な態度をとられなければならない。
何より一番腹が立つのは、勉強の心配をした俺には不機嫌な態度を取るのに、勉強の邪魔をしてきた女生徒には頭を撫でるようなことをしていた。
一体その差はなんだ。
むしゃくしゃした気持ちになったが、それでも明日ちゃんともう一度昼休みに話し合いをしようと決める。
電話をしようとも思ったが前回勇気を出して掛けたのに七海を怒らせたことを考えれば、到底する気にはなれなかった。
「みーちゃん、昨日はすいませんでした」
翌日の昼休み。
数学準備室で開口一番に七海がそう言ってきた。
昨日はあんなに苛立っていたが、もう夜のうちに不安な気持ちになって今朝方は七海とこのまま気持ちまでこじれてしまったらどうしようと酷くソワソワしていた。
七海の言葉にホッとして首を振る。
「…ああいや、俺も悪かった。自分の考えを押し付けすぎてしまった」
「いえ、みーちゃんが言った通りです。合宿行ってきますね。あ、金は別に大丈夫なんで」
「そうか。お前が納得してくれてよかっ――」
表情を緩めて弁当箱を差し出しながらその顔を見上げる。
ギクリと身体が強張った。
明らかに表情が拗ねている。
どう見てもこの顔は納得していない。
「お、おい。嘘をつくな。何か不満があるのだろう」
「ちゃんと納得してますよ。みーちゃんが言ったことが正論だと思ってます。センター試験まであと一ヶ月ちょいなんで遊んでる暇なんてなかったです」
「その通りだ。分かってるならなぜそんな顔をする」
七海はそれには答えず、むくれながら俺の身体を引き寄せる。
強く抱きしめられて息が詰まった。
「お、おい。何を…」
「あーもー、ちょっと黙っててください」
「なんだとっ」
すっぽり抱き込まれた胸の中で慌てて顔をあげる。
教師に向かって黙ってろとはなんだ。
「みーちゃん、俺は昨日子供だから怒ったわけじゃないですからね」
「な、なんだ。やはりそこが気に食わなかったのか」
「そうじゃないです。やっぱりみーちゃんは全然分かってくれてない」
言いながら七海は俺を見下ろして、荒々しく頬や耳を撫でてくる。
だが顔はやはり不機嫌なままだ。
「もうちょっと男として見てほしかっただけです。どう見たってあれは教師どころか親目線じゃないですか」
「そ、それは年上なのだから仕方な…っ」
こめかみに口付けられて七海の体温にヒクリと身体が跳ねる。
同時に急くような手が首筋を撫でていく。
「俺だってちゃんと考えてるんです。少しくらい俺の気持ちを優先してくれたって…」
「――ちょ、ちょっと待て。さっきから文句を言いながらなぜ触ってくる」
「時間を無駄にするなってみーちゃんが言ったじゃないですか」
「そ、それは言ったが…」
言ったがそんな話し合いをしながら普通ベタベタと触ってくるものなのか。
全く話に集中出来ない。
そうこうしているうちに顎をカプリと噛まれる。
「――っあ」
甘く噛まれる刺激に身体を震わせると、後ろに回った手が俺の腰へ落ちていく。
そのまま口端にキスを落とされ、七海の手が俺の身体を意図したように撫で回す。
身体が反応してしまうが、この流れは非常にまずい。
七海にそんな時間を使わせるわけにはいかない。
「だ、ダメだと言っているだろう」
グイと七海の身体を突き放す。
頭がジンジンと触れられた余韻で痺れていたが、俺が理性を失うわけにはいかない。
七海はやはり拗ねたような顔をしていたが、自分でも分かっているのか堪えるように一度目を瞑ってから俺を離した。
「…ならせめて言葉を下さい」
「――え?」
「俺の事好きですか?」
どかっと体温が上がる。
そんなことわざわざ言わなくても好きだから付き合ったに決まっている。
そんな分かりきっている事をわざわざ言わせようなんてやはり子供だ。
「く、くだらないことを言っている暇があったら早く飯を食え。時間が勿体無い」
「くだらないって…」
もうバクバクと心臓が鳴って七海の顔が見れない。
好きなんて言葉を相手に伝えようものなら、立ちどころに力が抜けてしまいそうだ。
想像しただけで指先まで痺れるような緊張と甘い疼きがこみ上げてくる。
変に意識してしまって顔を上げられなかったが、七海がそれ以上俺に何か求めてくることはなかった。
しばらく黙っていたが、すぐに機嫌が直ったのかいつもどおりの笑顔を向けてくれた。
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