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「……っ」
やはり言葉が出てこない。
言わなければと思えば思うほど、喉が詰まったように呼吸の仕方さえ分からなくなっていく。
「みーちゃん、パレード見たら観覧車乗りましょうか」
視線を俯かせたまま、食べかけのアイスを見つめる。
心臓の音がバクバクと煩くて、頭が上手く回らない。
言いたい。
ちゃんと気持ちを伝えたい。
だが言うのが怖い。
もし茶化されたら、何をいきなり真面目に言っているんだと笑われたら。
そんなことはないと分かっているのに、余計な考えが邪魔をする。
別にあえて気持ちを伝えるような事はしなくてもいいんじゃないかと、逃げ腰になってしまう。
不意に隣から手が伸びてきて、キュッと耳を摘まれる。
は、と顔をあげると七海がどこか困ったように笑っていた。
「アイス溶けちゃいますよ」
「――あっ」
垂れそうになっていたそれを慌てて舌で舐め取る。
離れていった手を目で追うと、七海がベンチから立ち上がった。
「パレード見たら帰りましょうか。みーちゃんは明日も仕事ですよね。あんまり遅くなっても可哀想ですし」
「――えっ?ま、まだ帰るには早いだろう」
「んー、もう遊園地は飽きました。早くみーちゃんとエッチしたいです」
「おいっ」
全くコイツはいつもそれだ。
だがあんなに楽しそうにしていたのに飽きてしまったのか。
ひょっとしたら俺の反応がつまらないせいかもしれない。
七海はもっと絶叫系のアトラクションを楽しみたかっただろうし、デートなのだから相応に盛り上がる話もしたかっただろう。
ジェットコースターを怖がってしまったのがよくなかったのか。
それともお化け屋敷を怖いと言って七海に抱きつけば良かったのか。
「みーちゃんと一緒に遊園地来れて幸せでした。今度はみーちゃんが楽しい場所に連れてってくださいね」
七海はそう言っていつものようにニッコリと俺に笑顔を向ける。
俺の楽しいものなんて数学以外は七海といることしかないが、七海が飽きてしまったというのなら仕方ない。
それから自然とまた手を繋がれて、人混みから少し離れた高台からパレードを眺める。
遊園地のキャラクターやそれぞれに衣装を着飾ったキャストが綺麗に揃ったダンスを繰り広げ、それに合わせて花火や水源が吹き上がる。
パレードというからもっと凱旋パレードのような形を思い浮かべていたが、まるでショーを見ているかのようだ。
七海であればこんな遠い場所より、はしゃぎながらもっと近くて見たいと言いそうなものだが。
「…目の前までいかなくて良いのか?」
「近くで見たかったですか?みーちゃん人混みあんまり好きじゃないかなって」
「お、お前が見たいかなって…」
「俺はパレードよりみーちゃんが見たいからどこでもいいんです」
手すりに頬杖をつきながらあっさりと七海は俺にそう言ってみせる。
どうしてそんな風に言えるんだ。
こんなにも俺がたった一言想いを伝えられなくて悩みに悩んでいるというのに、まるで息をするかのようにそんな台詞を言ってみせる。
耳まで熱くなるのを感じながら、再び視線を伏せる。
ダメだ。
やはりまだ帰れない。
まだ七海と一緒にいたい。
どうしても帰る前に、七海に気持ちを伝えたい。
「…あ、あの」
パレードを見ながらぼそりと呟く。
七海が首を傾けて俺を覗き込んでくるから、余計に緊張してしまう。
好きだ、とただそう一言伝えればいい。
それだけでいいんだ。
「…あー…えっと」
「んー?どうしました?モジモジさんですか?」
「そ、そうじゃなくて…っ。お前に言いたいことが…ある」
なんとかそこまで言った。
もうそこまで伝えただけで心臓が壊れそうなほど早鐘を打っているが、大事なのはここからだ。
七海が俺を見下ろして、視線が絡んで胸が詰まる。
「………っ」
やはり、言えない。
どうしても言葉が出てきてくれない。
七海も黙って俺の言葉を待っているし、言いたいことがあるのも伝えたし、タイミングとしてはこれ以上のものはない。
今言わなければこの後なんてもっと言えないだろう。
それでも一度言い淀んでしまうとどんどん言うことが出来なくなってしまう。
完全に黙りこくっていると、あやすような七海の手のひらが落ちてきた。
甘やかすように俺に触れる手のひらに、なんだか胸がいっぱいで泣きたくなってきてしまう。
大切な人に気持ち一つ伝えられないなんて、こんな情けなく臆病な自分がいることを初めて知った。
七海が好きだ。
好きで、好きすぎて、少しだって嫌われたくない。
「…そんなに言いづらいことなんですか。遊園地でトラウマになるような内容は勘弁してくださいね」
「え?」
そう言って顔をあげると、不意にガバッと抱きしめられた。
「――好きです。本当に大好きなんです。…俺離す気ないですから」
七海にしてはどこか余裕のない言葉だった。
またしても先に言われてしまった言葉に胸が震える。
もう抱きしめているというのにさらに力強く引き寄せられて、痺れるような甘さに思考がかき消されてしまった。
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