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第10章
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小さな電子音のようなものが、遠くに聞こえた。
ピッピッピっと規則正しく暗闇に響いている。
七瀬はぼんやりとした意識の中で、薄っすら目を開けた。
視界に映った天井は冷たげで暗い。
ーーーここは、どこだ…?
おれは今、どうなってる。
柔らかいモノが身体を包んでいるので、
床に寝転がっているワケではないようだ。
ーーーおれはどうなったんだっけ?
確か、確か…、
あの鉄の部屋で、男達に嬲られた後、
その後、学校に連れてかれて…、
会長室で…、
会長室で?
あの後どうなったんだっけ?
おれは、薬を射たれて、会長に縛られて…、
それから、それから…、
ハッと意識が覚醒する。同時に嫌悪感と恐怖が、身体中に広がった。
ーーーそうだ、おれは、会長の上に乗せられて…、ローターと薬で何度もイきながら、
それから…、
『七瀬…。』
御船が…、立っていた。
険しい顔で、こちらを見ながら、
殺気を放って…、
おれを…、
「ッあああ!」
ギジリとベッドからはね起きる。頭を抱え、
顔を隠しながら、ガタガタ震える。
ーーー見られた、見られた!
あの姿を、あの痴態を、あの声を、
御船に見られた。
七瀬は浅い呼吸を繰り返し、転がるようにベッドから落ちた。点滴が外れる。身体がガタガタ震えて思うように力が入らない。
そして、真っ暗な病室を見渡して、
更に恐怖で顔を歪めた。
ーーーおれはどうしてこんな所にいるんだ?
御船は?みんなは?会長は?
まるで一人きりの世界に迷い込んでしまったように、七瀬は狼狽えた。そして、入院着から覗く自分の腕を見て悲鳴をあげた。
そこには治りきらない、痣や傷の上に巻かれた包帯があったのだが、七瀬の目にはあの鉄の部屋に繋がる錆びついた鉄の鎖が巻きついているように見えた。
慌ててむしり取って床に放り投げる。
…ああ、そうか。
自分は隔離されたのだ。
他の人間とは、普通に一緒にいられないほど、
いやらしく汚れてしまったから、
誰にも目の届かない場所に隔離されたのだ。
ここは鉄の部屋の続きだ。
おれは一生ここに繋がれて暮らすのだ。
七瀬はふらつく足でヨロヨロ立ち上がり、カーテンを抜けた。足の裏に触れる床がひやりと冷たい。扉を開けて部屋を出る。
ーーー光は…、どこかに光はないか。
この暗闇から抜け出せる光は…?
どこか逃げ道は…?
『ほらもっと尻をふれ。』
『休んでんじゃねぇぞ。』
『さあ、もっと気持ちよくしてあげる…』
不意に声と黒い気配が七瀬の身体に覆いかぶさった。
ーーー嫌だ、嫌だ!
伸びてくる手、襲いかかる快感、吹きかけられる囁き、いやらしい水音。
空気が冷たい。身体が凍える。
嫌だ、触るな、もう嫌だ!
どこかに逃げ道はーーー?
出口を必死で探した時、
七瀬の足元に、
一条の光がに差し込んだ。
病院の窓から入る月の光だ。七瀬は魅せられたようにその光に目を見張った。
ああ、あれだ。
…あそこに、あそこに行けば…、
おれは抜け出せるのだろうか。
この闇から、この身体から、この世界から。
おれはこの汚れた身体から解放される?
ーーーはやく、はやく…。
早くしなければ奴らにまた捕まるかもしれない。
そうすれば今度こそ、我を失う。
そうなる前に、
その前に早く壊してしまわなければ。
この身体を完全に消し去ってしまわなければ。
ーーーそうしたら、
そうしたら、おれはまた御船に逢いに行っても良いだろうか?
この汚れを洗い流せたら。
彼はまた笑ってくれるだろうか、
おれを抱きしめてくれるだろうか。
あの優しい笑みで、甘い声で、あたたかい身体で。
逢いたい。御船に、逢いたい。
廊下の手すりに掴まり、上を見上げた。
そして、吸い寄せられるように、取り憑かれたように、
七瀬は屋上に続く階段を登り始めた。
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