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「…っ、はっ、ぁ」
真夜中。雪が降り積もり、気温は氷点下をいく。そんな中サランは2匹を抱きしめていた。
サーシャの森は、雪が降った。それもサランのいる地点の周りなのだけど。これはサランが知らないことだ。
「(寒いです…早く、薪を…火が、消えてしまいます…この子達を布で包んで…早く、薪を取ってこないと…)」
サランは残り1枚のシーツで子供を包み、暖炉の前に置いた。
「すぐに戻ってきます。待っていて……いい子ね」
「キュン?」「キュー!」
サランが吹雪の中へ姿を消すと、2匹は慌てだした。が、短い足を動かしてもシーツが解けることはなくてピーピーと鳴き出す。
「(…寒い、早く…枝を、、探さないと)」
膝まで積もった雪を裸でかき分け、サランはふらつきながら歩く。
「(寒い寒い寒い寒い寒い…はやく…あの子たちの、所に行かないと…)」
歯をガタガタと鳴らし体は震え呼吸も荒いまま手を雪に突っ込んで枝を探した。
「た、ただいま…」
頰だけじゃなくて体中真っ赤にして帰ってきた母親の姿に喜ぶ子どもたち。
サランは急いで暖炉の中へ薪を入れた。
数本しか探せなかったがサランの体力が限界だった。
「あ、たいへん…火が…きえちゃい…ま、、」
サランは床に座り込み、暖炉のレンガへ手をついた。おかしい。身体がうまく動かない。
「キュー!!!キュッ!!!」
「キャウ!シャーッ!キュゥ」
ジタバタと暴れ、1匹は意識をなくした母親の膝上に乗った。
「キュー?」
もう1匹は消えそうになる火のゆらゆらした影を見つめて叫びだした。カラっカラの声だった。「シャ!ッ!ッ…ギャウ!」
ぼおっ…
「キャウ!ギャウー!」
「キュ?…キュン!キュン!」
すると小さいが炎を口から出し、暖炉の中に新たな火を生んだ。
2匹は喜び叫ぶがサランの目が覚めるのは次の日だった。
「ん?あ、れ?」
雪が止み、朝日がどこからか漏れている。
「火が…ついてる…あっ!?…よかった、生きてる…2人とも…」
それからサランは少しだけの木の実を食べて子に乳を飲ませ、薪を拾い、暖炉の火を守り、換気し、子どもたちを生かすことに全てを費やした。
「ん?どうしたの?」
がりがりに痩せこけたサランはガミガミと手を噛む1匹に問いかけた。手の甲は痛くとも、あげられる乳がないためしょうがない、と悟る。
また火が消える…
ああ、わたしはこの子達のために…はやく…
無力な自分に涙を流すサラン。しかし
「ギャウ!」
「どうしたの?お腹が空いたのね?」
いつまでも噛み続ける子どもに笑顔を絶やさないサランだったが、驚きで眼を見張ることに。
ぼおっ。
「え、…あなた…口から、火が…」
「ギャウ!」
えっへん!と言わんばかりの誇らしげな表情。サランは感極まって手のひらのその子を抱きしめた。
「なんて、偉い子でしょう、ありがとう。本当に素晴らしいです…」
嬉しそうにお腹を母の顔にくっつける子にもう1匹は悔しそうに鳴く。
なぜこの子が火を出せたのか、分からないけれど父親譲りなのかもしれない、と思えば疑問は払拭された。だってわたしの旦那様は魔王様なんですもの。
「ふふ、あなたは焦らなくていいのよ?わたしも、お兄様ができたことは、すぐに真似できなかったんです」
サランはなぜか不思議と温かい気持ちになった。懐かしい、大好きな故郷を思い出したからだろうか。
「キュー?」
「ギャウ?」
2匹の姿を見ているとサランはまだ頑張れる気がした。
それが、体力の限界を呼ぶものだとしても、サランは気づかなかった。幸せで幸せで…こんな日が毎日続きますように。
サランは嬉しそうに笑った。
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