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「ふっ」
ガラス越しに聞こえる優しい吐息。暖かな笑みを浮かべるサーシャにつられてサランと子どもたちは喜びの感情を浮かべる。サランは窓辺に近づき、ガラス戸を開けようとしていた。
「まさか…」
3人はというと、その姿を見て息を呑んでいた。
「メサーシャ…アレギウス…」
他の3人はサーシャの正体を知った。過去に一度姿を見たことのあるフィオリも当時の豪雨という天候では気づかなかったようだ。
この晴天のもと、サーシャの容姿を見たことによってようやく理解できたのだ。
ミーアの生き残りであるメサーシャ・アレギウスであるということに。サランは知らないはずだ。
あの微笑む男がどれだけの魔力を持つ脅威的な存在であるかということを。
ガチャリ。
サランがガラス戸を開け、ペコリとお辞儀をしたその時、ローブを翻した彼にサランを奪われた。
「わっ」
しかしサランは楽しそうに笑う。
子どもたちもキャッキャと抱きつく。
まるで親しい兄弟と遊んでいるように見える。
「メサーシャ…今日は何のようだ」
緊張した面持ちでフィオリが声をかける。
しかし、サーシャ改めメサーシャは微笑んだ。戦場において独裁者とも言われた人物とは思わせないような、優しい表情で。
(あんな表情ができる人だったか…?豪雨の時といい…メサーシャはサランに対して特別な態度をとる気がするな…一体なぜだ…2人は知り合いだったのか…)
かつて、ミーアと呼ばれる地で起こった戦争。もう190年も昔のことだが…。
フィオリもあの場で命からがら助かったうちの1人。弟のアーサーは生死を彷徨いクラシアに救われた。
町が燃え、辺りは真っ黒な雲と煙が覆い尽くされていた。
火の熱さとそれによって照らされる残酷な風景。逃げ場がないのだと思わせる、地獄のような空間。
走っても変わらない暗黒な世界。
思い出すだけで頭が痛くなる。
そんな恐ろしい場所で…
メサーシャは身に傷ひとつ付けなかった。
不敵な笑みで率先して戦っていた恐ろしい人物。
なのに…
「私はサーシャ…今までも、これからも」
(目の前にいるのは誰だ?
本当に、あのメサーシャなのだろうか…
確かに、獣族にしても寿命が長すぎるうえにメサーシャではなくサーシャと名乗るが…同一人物にしか見えない。
匂いもあの人そのものだ)
ひとまず様子を伺うことにした。
フィオリ達はその場から動かず、バルコニーにいるメサーシャとサラン、子どもたちを見ている。
「?サーシャさん、どうかしたのですか?」
にこにこと笑ってサランが尋ねれば、メサーシャはサランに頬を擦り寄せた。
恋愛的な、というよりは…親子愛のように見えるスキンシップの仕方だ。
子どもたちは挨拶してきたよ!と報告するかのように走り、フィオリの胸に抱きついた。
「あのね、花様……私はそろそろ眠りにつくのです」
「眠り…?」
「はい、きっと、もう、今度は起きないかもしれません」
「今度は、起きない眠り……」
「初めてなんです。そう思うと、怖くなってしまって」
「…もし良ければ私がお話を聞いてもいいですか?」
「はい。花様…ありがとう」
小声で答えたメサーシャの声に気づいたのは、抱きしめ合っていたサランと耳の良いアーサーだけだった。
「フィオリ様…」
サランがメサーシャの頭を撫でるように抱きしめてフィオリに顔を向ける。
「兄様、俺からもお願いです…」
アーサーはまるで話を知っていたかのように懇願する。
「なんだ?怒らないから言ってみろ」
サランとアーサー。2人の様子に哀しみが見え、フィオリは口調を柔らかに問うた。
「サーシャさんとお話をしてきたいのです」
「メサーシャさんとお姫さまに時間を作って欲しいのです。きっと、大切な時間です」
「わかった。…サラン、行って…帰ってこい」
「ありがとうございます、いってきます」
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