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ここはサーシャの森。泉に浮かぶ小島、もとい大きな木の根に2人で寄りかかる。
「花様…こんなに眠たいのは、初めてです」
隣で瞼を閉じているのはメサーシャだ。サランにとってはサーシャなのだが。
「はい、今日は風も気持ちよくて、暖かいですね」
「…はい」
サランはそっと頭を撫でた。そのまま額にかかったサーシャの銀色の髪を梳く。
この人は会った時から不思議だった。
まるで家族のように優しく接し、時折り寂しそうに、けれど親身になってサランの身を案じてくれていた。
「わたし…サーシャさんが大好きです。
私に声をかけてくれて…たくさんのお話をしましたよね。
いつも、ここに集まる子たちはサーシャさんが好きだって言うんですよ。
サーシャさんは、今吹いている風のように気持ちよくて、……どこか…掴めないところがあるのに…
みんなの言う通りなんです。
…貴方が…サーシャさんがいると心が安らぐのです。
そっと寄り添ってくれて…いないことが考えられなくて…
貴方のことが…みんなも、私も、大好きです。
きっと、ずっと…遥か昔から、わたしのことを守っていてくださったのですよね…」
わからないけれど、そんな感覚がサランにはあった。
知り合って間もないはずなのに
彼の瞳にはサランがしっかりと映り込んでいて、彼からはいつも慈愛を感じていたからだ。
そんな人が、眠ると言ったのだ。起きないと。
サランは知らぬ間に自分の目から涙が流れていることを知った。
「っ、とっても、悲しいです。貴方がいないのは…どうしてでしょう…もっと、貴方といたかった…」
サーシャの白く細い指がサランの涙を拭った。
「泣かないで、花様…」
「っ、サーシャさん…!」
「私は幸せでした…私はあなたを知っています…あなたが生まれた日のことも…今日まで…ずっと…
ようやく、私の夢が叶ったんです…
こんな幸せはない…」
「っ、…夢?、」
「あなたとお話をして、笑い合うことです」
(そんな、ことが、夢?)
もっと自分に何か出来たことはなかったのか、サランは口を開こうとする。のだが、
目を瞑っているけれど彼が穏やかに笑っている。
これで、充分だ、と言っているみたいではないか。
「えっ?」
サーシャにミサンガのようなものを渡された。
きらめく紫色と青色、緑色、黄色の糸でできている。
サーシャに手渡されたそれを見つめていると、
彼の体がほわり、と光っていることに気づいた。穏やかな、あたたかな光の粒たちが、ぱらぱらと飛んでゆく。
「あっ?」
サランは慌ててサーシャに抱きつくが、彼の分身となったような光たちは青空に向かって上がってゆく。
真っ直ぐではなくてふわふわと蝶のように。風に揺られながらも踊っているように。
「いやです、、遠くに行かないで、わたしと、…」
ぼろぼろと流した涙で視界は歪む。
「サーシャさんっサーシャさん!」
眠る彼は何も言わない。ぱらぱらと光がサーシャの体から生まれていくだけだ。
ぱち、ぱち、と小さな星たちが弾けるように音色を奏でていく。それは、誰かが楽しそうに笑う声にも聞こえる。
まるでお別れの歌でも歌っているみたいだ。
「うぅ、ううっ、っ、ふ、うう…ぅああ、」
悲しい。サランから涙が次々に落ちていく。ぼたぼたとサーシャの胸に落ちてローブを濡らした。
「、わたし、っ、サーシャさんが好きです。
今まで…うぅ、ほんと、に…っ、ありがとうございます」
どうか、この思いがサーシャに届くようにと声を出す。
「ふふ、花様泣かないで」
「っ、!?」
サーシャの声が聞こえた。でも、彼はもう…
「本当に幸せでした。ねぇ、花様……
…私たちが、いつか…また会えたら……」
お友だちになってくださいね
「っ、もちろんです、もちろんですから、」
「じゃあ、さようなら…花様…」
見上げると光が木の葉の奥に隠れていく。葉の間からは、空に舞う光がチラリチラリと見えた。
サーシャがいたその場所には
何も残っていなかった。
さっきまでここにあの人がいたのに…
草木にわずかな温もりがないか手を当てる。木の幹や根、さわさわと生える芝に手を滑らせるも何もない。
「サーシャさん……っ、」
彼はもうこの世界にはいない。
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