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王者の風格
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早朝。無意識に早く目が覚めてしまい、脳を空っぽにするため、走り込みに出た。
まだ日が強くないお陰か、どことなく涼しく感じる。
心地いい風にあたると自然と頬が緩み、軽く目を閉じて風を楽しんだ。
「あ……」
不意に見覚えのある姿が目の前で止まっているのを見つけた。
いや、背中なら、見覚えのある、なんて程度じゃない。この人の背中は、腐るほど見てきた。
「牛島さん、おはようございます」
「? ああ、白布か。おはよう」
珍しいな、と言って俺の顔をみると、不思議そうにそのまま見つめてくる。
「どうかしましたか?」
「川西と喧嘩でもしたか」
「はい!?」
まさか牛島さんにまでバレているのだろうか、俺はどれだけ感情を隠すのがザルなんだ。と思っていると、牛島さんが続ける。
「川西も同じ顔をしていた。……懸念はなにもないと自己暗示しているような顔を」
「っ……」
確かに俺は今、そうしているのかもしれない。いつのまにかもとの関係に戻っている事を願って、ただ時間の過ぎるのを待っている。
無責任に。
「牛島さん、今回の事、俺が原因なんです」
なにか、誰かに謝らなくてはならないという衝動に駆られた。
「そうか」
そしてこの人は、それを許してくれる。
「すみませんでした。今から、太一の所に行ってきます」
「ああ。遅くても練習前には終わらせろ」
「はい」
来た道を全力で走り、強い決心を携え太一の元へ向かった。
◇ ◆ ◇
走ったせいか、緊張のせいか。
鼓動はこれ迄にないほど早く、激しく脈打っているように感じる。
少し落ち着けるために、深い、深い、深呼吸をした。
うだうだと悩んでいる暇はない。一度強く目を瞑って__
「賢二郎?」
「うえっ!?」
ビクッ、と体が跳ね、反射的にそちらを見る。すると、太一が驚いた様子で立っていた。
みっともなく驚いてしまった事を改めて確認すると。顔全体が熱くなっていく。
「いっ、いやっ、別にっへんな意味でお前のへやいたわけじゃなくてっ!!」
「……」
「ったっ、たいち……?」
口元を抑え俯いたまま返事がない。ストーカーか何かに取られてしまっただろうか。
ああ、なんか、うまくいかない。涙が出てきた。
「あの、太一、ごめん、謝ろうと、お、思って……」
「わ、なに、なんで泣いてんの」
一つ息をついた太一は俺を見てぎょっとする。
「あー、その、なんだ。別に俺は怒ってないし、賢二郎が突き飛ばした理由も、一応わかった」
優しげに言われた言葉は、最初こそ安心したが、後半からは地獄の罰をうけているようだった。
わかった、と。
そう言ったのか?
なぜ、一体、どこで、どうしてばれた。このままでは、気まずくなってしまう。なにか言え。考えろ。何か、何か何か!!
「いやでも、瀬見さんと付き合ってることとか、周りには言いふらさないし。余計なちょっかい入れてやろうとか、思ってないから。そんなこの世の終わりみたいな顔すんなよ」
「……は?」
「ん?」
付き合ってる……? 俺と、瀬見さんが?
一体何の話をしているんだ?
「太一……? それ、どうしてそう思ったんだ……?」
「……え、いや、なんとなく?」
どことなく話題を反らそうとしているように見える太一を、じっと見つめる。何を隠している? 俺と瀬見さんが仲を疑われるような事はあったか? あったとすればハッキリ「かわいくない」と言っているのと、たまにセットアップのことで話をしているぐらいか……? いや、でもそれだけで太一が仲を疑う要因にはならないだろう。……それにしても本当に綺麗な顔だ。きっと彼女の一人や二人もういて、童貞なんぞ捨てているのだろう。まつ毛も長いな……もっと近くで見られたらいいのに。
「ちょ、賢二郎、タイム、あんまみられると流石に恥ずかしい。話すから。話すから一旦落ち着いて」
「っあ、悪い!」
ふう、と息をついた太一は一歩下がった俺に少し口角を上げてから部屋の扉を開いた。
「なんか変に悩んでたのバカらしいよなぁ……ほら、流石にここじゃ話せねぇから入れよ」
「あ、ああ」
どくどくと少し早く脈打つ鼓動を押さえながら、太一の背中を追う。
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