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黒い影 3
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涙を流しながら吐き続けて、もう何も出ないのに、まだ胃がせり上がってきて苦しい。僕は、トイレの床に座り込んで、しばらく動けなかった。
時間が経つにつれて吐き気が治まってきたから、ヨロヨロと立ち上がり、壁伝いに歩いて洗面所に向かう。洗面所に入ると、蛇口から勢いよく水を出して、涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔を洗った。
棚からタオルを取り出して顔を拭い、タオルを洗面台に置く時に気づいた。僕の手が、面白いくらいにガタガタと震えている。
ーー今さら…なんでこんなに震えてるの?父さんが僕を見ないことなんて、昔から当たり前のことじゃないか。だから僕は、あの家を出て、父さんの目に映らないようにしてるじゃないか。なのに、何を怯えることがあるの?
自分自身を落ち着かせるように強く思うけど、一向に震えが止まらない。
僕は父さんに愛されてないのだから、どんな扱いを受けようと平気な筈だ。なのに実際は、父さんの目線、動作、言葉に、こんなにも動揺してしまっている。
僕はよろけながら、自分の部屋に入ってベッドに横たわり、布団を頭から被って固く目を閉じた。
ーー僕とロウがあの家を出てから四年になる。その間、父さんが来たことなんて一度もない。なのになんで…今さら尋ねて来たのだろう。しかも、ロウに会いに?
そのことを疑問に思って考え込んでるうちにロウが帰って来たらしく、玄関から僕の部屋へと足音が近づいて来た。
ノックもなく、勢いよく部屋のドアが開く。ロウがまっすぐ僕の傍に来て、布団の上から僕を抱きしめた。
「どうしました?鞄が玄関に放り出されていたから…焦ってしまいました。…まだ、熱が?」
「…違う…」
「じゃあ、何があったのですか?」
「ロウ…、胸が痛くて苦しい…。お願い…助けて…」
「…ルカ様…、大丈夫です。俺が、傍にいます」
ロウが一旦身体を起こして、一気に布団を剥ぐと、僕の隣に横たわり、僕を胸に抱き寄せた。ロウの力強い腕に包まれて、少しずつ気持ちが落ち着いていく。シクシクと痛む胸が、少しだけ和らいだ気がした。
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