アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第七話 異変2
-
「バイト、休んでも良かったのに。」
店長が心配して俺を覗き込んだ。俺は学校を早退してしまったこともあり、罪悪感からバイトには出た。
帰宅後はシフトまでの時間、横になって安静にしていたが、体調は戻るどころか、一向に良くなることはなく、むしろ悪化していた。
「いやぁ、俺、大丈夫ですよ。」
「そう?無理はしないでね。」
バイトは二年目であるからそれなりに業務には慣れていた。しんどいながらも、仕事はなんとか行えてはいた。
「はい、鶏の唐揚げです。どうぞ。」
俺は、いつも通り、お客さんに料理を出していた時だった。
「おにいさん、良い香りするねー。」
カウンター越しに一人のお客さんが絡んできた。
「え?そうですか?俺には分からないですけど。」
なんかおかしなことを言ってくる方だな。酔っぱらっているのか?
俺は適当に話を終わらせ、業務に戻った。
「レモンチューハイです、どうぞ。」
また別のお客さんにお酒を出している時だった。
俺はいつも通りカウンターからお酒を渡そうとした。その時、そのお客さんはお酒を出す俺の手を触った。
「なぁ、にいちゃん。何時に仕事終わんの?」
「はぁ?」
あまりにも突然の出来事に俺は戸惑った。何を言っているんだこの人は。
「あ、あの、お客さん、チューハイですけど…」
「仕事終わりにさ、一緒に飲みに行こうよー」
50代も中ごろであろうそのサラリーマン風の男性は、俺の手を放さずに話し続ける。
「飲みに行くだけでいいんだけどさぁ、で?何時に終わんの?」
「いや、ですから、ここはそういう店じゃないですよー」
ははは、と笑い、俺は冗談で回避しようとする。
だが、そのサラリーマンは俺の手を放そうとしない。その手はなんだか油ぎっているようなそんな湿りを感じた。俺は気持ちの悪さを感じ離れようとするが、力が強いのか、お客さんの手が離れる様子はない。
俺は振り返って店長に助けを求めようとするが、奥のほうで常連さんとお話している。
お客さんの手前、乱暴に振りほどくこともできない。
それにだんだんと熱で頭も回らなくなってきた。
「なぁ、にいちゃん。」
「はぁ、はぁ…お願いです。手を…」
やばい。目の前がぼやけてきた。他のお客さんも俺を見ている気がする。
誰か、助けて…。
俺がそう願った時だった。
「おい。悠希から離れろ。」
俺の手を握っていた男に恫喝する声が聞こえた。その瞬間に男は俺の手を離した。俺は急に力が抜け、その場にしゃがみこんだ。
異変に気が付いた店長が俺のもとへ飛んできた。
「水瀬君、大丈夫?!」
俺は何とか声を出して答えようとしたが、その前に、違う声が俺を遮った。
「すみませんが、悠希君は今日、体調がよくないため、連れて帰ってもよろしいでしょうか?」
その声は、さっき俺を助けてくれた人の声だった。
急いで見上げて、その声の持ち主を確認した。
それは、昨日出会ったあのミズキさんだった。
「ミ、ズキさ…」
店長は少し首を傾げた。
「えっと、水瀬君の保護者か何かでしょうか?」
「ええ。」
店長は俺を見た。店長は俺に、そうなの?と確認した。ミズキさんとは昨日知り合ったばかりだった。でも俺はなぜか、そうです、と答えた。
「そう、水瀬君の保護者だったら安心だ。水瀬君、今日はもう上がっていいよ。」
俺は申し訳ない気持ちがありながらも、この状況から脱することができることのほうが嬉しかった。
俺は、来ていたエプロンを脱いで、ミズキさんのもとへ行った。
「すぐ外に、車あるから。そこまで歩ける?」
「は、はい。」
そういうとミズキさんは、ふらつく俺を支えるために俺の肩をもって引き寄せて歩いてくれた。
ミズキさんとは昨日に会ったばかりなのに俺は何の不安も無かった。寧ろ、安心感が俺を包んだ。
「ミズキさん…ありがとうございます。」
俺は、ミズキさんの肩にもたれかかり、店を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 9