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友達の距離
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「今日なんかぼーっとしてるけど、寝不足?」
思考がトリップしていた俺の顔を覗き込むようにそう言われて、「お、ま、え、の、せ、い、だ!」と詰りたい気持ちをぐっと飲み込んだ。
結局昨日は、あの後なかなか寝付けず気を紛らわすために手に取った漫画を、そのまま全巻読破して朝を迎えてしまった。
まあ、その結果見事にできた両目の隈を見た陸に、朝一番に「うわ、ゾンビ」と言われたおかげで、少し顔を合わせるのに緊張していた気持ちが吹き飛んだのは良かったが。
「…もしかして優太、体調悪いの?」
また思考に沈んで返事を忘れていた俺を、心配を孕んだ陸の声が引き戻す。
「熱でもあるのかな…」
そう言って手を伸ばしてくる、陸の、手が、額に触れて、
「…っ!いや!漫画読みふけってただけ!気付けばまさかのオールっすわ!ははっ…」
咄嗟に体ごと顔を大きく逸らしてしまった。
やばい、今のは不自然だったか?
いやでも、気にしすぎな気もする。
いつもの自分はどんなテンポで陸と接していたっけ。
どのぐらい無遠慮に触れていたっけ。
普通の友達の態度って、距離感って、
意識すれば意識するほどどんどんドツボにはまって、どんどんと不自然になってしまっているのが自分でも分かる。
…嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
上手く取り繕えない自分が嫌になる。
こんな事で気まずくなんてなりたくないのに。
こいつの隣は、一番居心地の良い場所だったのに。
「馬鹿かな」
「あだっ」
そんな思考がぐるぐるして黙り込む俺の額に、陸はチョップを決めやがった
「なにすんだよ!」
「いや、漫画で寝不足なお馬鹿さんにはこのぐらいの衝撃がないと目が覚めないのかなあって」
少し意地の悪い顔で笑う陸に、イラっとした俺は無言で両手チョップをお見舞いした。
「いてっ!」
「倍返しだ!先に手を出した方が悪い」
そう笑い返してやると陸は唇を軽く尖らして不貞腐れた表情になった。
「だって、漫画で寝不足の馬鹿な優太くんがボーッとして俺の話全然聞いてくれないから」
「はあ?めちゃくちゃ聞いてますしー」
「ふーん。じゃあ、次の授業体育だけどもう皆着替えて移動したのに急がないのって俺の忠告を、優太はあえてスルーしたんだね?あえて自らの強い意志で遅刻してグラウンド3周追加されるんだよね?」
「はっ!?」
そう言われて慌てて周りを見渡すと、本当に教室には誰一人残っていなかった。
「そういうことなら俺は先に行くからね。じゃあね」
「ちょっ待てって!…うわっ!」
そう言って出て行こうとする陸を慌てて追いかけようと立ち上がった瞬間、机に足が引っかかり身体が勢いよく前に傾く。
ー倒れる、そう思ったその時、
「っと、危な…もう」
陸の胸に顔を押し付けるようにしっかりと抱きとめられた。
咄嗟にしがみ付いたせいで抱きしめ合うような体制になってしまう。
「……悪ぃ、ありがと」
急上昇した心拍数がバレるのが怖くて、押し退けるように腕で距離を取る。
慌てて離したその温もりが、惜しい、なんて思ったのは、きっと気のせいだ。
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