アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
番外編37ひと夜咲く純白の花の願い
-
矢田さんに連れられて、近くの公園に行くと、彼はベンチに僕を座らせた。
矢田さんは落ち着かない様子で3歩程離れた正面に立ち、終始強張った顔で小さな名刺サイズのメモ用紙を大事そうに握りしめていた。
矢田「あの…本当の事を言って欲しいっす」
マキ「本当の事?」
矢田「マキちゃんは〝男〟なんすよね?何が目的で百目鬼さんに近づいたっすか?」
あら…。
大体予想はついたけど、随分ハッキリ言う所を見ると、何か確証があるのだろう。それに言い方や態度が、僕を胡散臭いと思いながら、何処かまだ納得できてない様子。
矢田さんの手持ちのカードを、全部引き出す必要がある。
マキ「…目的?近づいた?。それは違うよ、矢田さんが僕を連れてきたんじゃない。目的なんかないよ。今ココにいるのは、百目鬼さんの看病のためだし」
ね♪、と可愛く小首を傾げる。
僕の笑顔にうろたえた矢田さんは首をブルブル振って僕を睨み見つける。
矢田「とぼけないでください!男なんすよね!…あんたの事調べたっす」
…一体何をどこで調べたのやら…。矢田さんの単独か?それとも…賢史さんとグルか…。
マキ「どこで何を調べたの?」
矢田「あんたの連れてきた先生様の病院の近所で、主婦に写真見せて聞き込みしたっす」
ふーん。
それを聞いてもさほど動揺しなかった。
むしろ僕の反応の薄さに矢田さんが動揺し、大事そうに抱えていたメモ帳を広げる。
矢田「ちゃっ、ちゃんとメモしたんすから」
主婦1『ああ、この写真、先生の所の弟さんのマキ君ね。数年前に遠いい親戚だとかで先生のお父様のじい様先生が引き取ったのよ。引き取った頃は荒れちゃってて大変。なんか訳ありそうだし、この容姿でしょ?何やっても目立つのよ、夜はフラフラ街に出掛けて朝帰りで大変。でもね、じい様先生が急病で倒れられて、奥様と田舎に静養に行かれてからは、そんな事も無くなってね。実の息子が後継いでこの家に一緒に暮らすようになってからは、落ち着いて先生のお手伝いするしとっても良い子よ』
主婦2『ああマキ君ね、とても気の利くいい子よ。え?昔?ああ、荒れた時期もあるけど、思春期だからしょうがないんじゃない?今は先生のお手伝いもしてるし』
お年寄り『先生?とても優秀な方ですよ、近所の評判もいいし、さすが大先生の息子さん、人柄も良いしね。マキ君かい?べっぴんでとても良い子だよ』
主婦3『あら、マキ君さらにイケメン度が増したわね。マキ君は寮生活だから最近見てないけど…。え?マキ君の人柄?とっても良い子よ、気も効くしイケメンだし』
矢田の読み上げだ証言を聞いて、心の中で、「だろうね」と思った。
マキ「………で?何が分かったの?」
矢田「…マキちゃんは男で、病院を時々お手伝いしてて、とても気の利く良い子で、イケメンで…」
マキ「どうもありがとう♪」
僕がニッコリ微笑むと、矢田さんは「あっ、いえ」と会釈してきて、ハッと我に返った。
矢田「いやいや!そうじゃなくて。証言はこれだけじゃ無いっす!あんたが夜遊びしてた場所も突き止めて、あんたが入り浸った店を探し当てて、そこでも聞き込みしたんすから!」
矢田がメモ帳をめくってさらに別の証言を読み上げる。その証言は、主婦の証言の印象からかけ離れた、夜のマキの姿だった。
男1『ああ、知ってるよ、マキだろ?魔性で有名だぜ、なんでも落ちない奴はいないとか…』
男2『ここらじゃ有名なさせ子だぜ』
男3『知ってる知ってる、昔はよく来てたよ、ありゃ普通の人間には手に負えないよ』
男4『マキ?あぁ、最近見ないな。来るもの拒まず去るもの追わずだったけど、ついに相手ができたんじゃないか?しかし、あのエロ淫魔が1人に絞れるとは思えないけどなぁ』
男5『はぁ?マキの相手?知らねぇなぁ、同じ相手と歩いてるの見た事ねぇし、取っ替え引っ替えゲーム感覚で楽しんでるんじゃないの?』
…………それは、過去の自分の姿だった。
矢田「俺たちを騙したんすね!」
マキ「騙す?」
矢田「そおっす!百目鬼さんに色仕掛けで近づいて!百目鬼さんや俺たちを騙して!最初っからそのつもりだったんだろ!探し物なんてしてなかったんだ」
マキ「…。確かに僕は男だけど、探し物は本当だし、百目鬼さんを騙そうなんて思ってないよ」
矢田「嘘っす!俺、あんたと出会ってから毎日時間のある時は駅前を探したっすけど、四角い海柄のキーホルダーなんて見つからなかったっす!」
え?探してくれてたの?
矢田さん、あんなにくしゃみとか咳とかしてたのに…。
マキ「探してくれてたの?ありがとう凄く…嬉しい」
矢田「もう、嘘はつかないで欲しいっす」
マキ「嘘じゃないよ。携帯出してみて」
矢田「携帯?」
マキ「探索して。去年の夏。神明水族館で夏休みに期間限定発売したラ○センとのコラボキーホルダー」
言った通りに水族館を探索すると、確かに矢田の携帯画面には、期間限定のキーホルダーが表示されていた。
マキは、矢田の携帯画面を見ずに、柄の細かな描写、価格、他の種類のかたちと絵柄を言い当てた。
マキ「僕の大事な宝物なんだ、結局見つからなかったけど…」
矢田「……ッ、キーホルダーのことは本当だとしても、あんたは男で、百目鬼さんを騙してることには変わりないじゃないっすか!」
…さて、どうしたもんか。矢田さんは、僕と百目鬼さんがキスしてるのを見てる。オカマを女性と勘違いしてる矢田さんだから、百目鬼さんがゲイだと気づく頭はないと思うけど。
マキ「…騙してはないよ。僕は男の人が恋愛対象だからね、百目鬼さんがかっこよくて好きになっちゃったんだ」
矢田「…男が…恋愛対象?」
なんだそれ…とでも言いたいように青ざめた矢田が一歩後ずさる。
ゲイバーで聞き込みしたくせに、それに気づいて無いあたり流石天然というべきか…。
矢田「そ、そんなのおかしいっす!ありえない。百目鬼さんには、可愛い器量好しで料理上手のお嫁さんに来てもらって毎日癒されて幸せになってもらうんす!あんたみたいなのが近づいちゃダメなんすよ!あんた百目鬼さんの幸せを邪魔してるんすよ」
邪魔…。
確かに、邪魔かもね。
マキ「確かに、百目鬼さんにはそういう相手が必要だね。でも、相手を選ぶのは百目鬼さんだ、恋愛は自由じゃない?」
僕がへらっと笑うと、矢田さんはさらに厳しい表情になる。
矢田「あんたにとっては自由気ままなもんでも、百目鬼さんを変な所に引きづり込ま無いで欲しいっす!あんた男なんすよ!百目鬼さんには幸せな家庭が必要なんす!」
矢田の真剣な眼差し。百目鬼さんのことを本気で心配して慕ってる。賢史さんといい百目鬼さんは本当に友達思いの良い人たちと一緒にいる。
矢田「あんたが魔性で、相手を取っ替え引っ替えだって調べはついてるんすよ!あんたの出入りしていた店で俺が直接聞き込んだんだから確かな情報っす!お、俺には男の恋愛とか正直意味わかんないっす。…でも、せめて、相手をきちんと好きなら良かったのに。意味は分かんないっすけど、あの素晴らしい百目鬼さんを好きになる気持ちなら分かりやす。でも、あんたは違う、百目鬼さんは、あんたみたいな汚いのが近づいて良い人じゃ無いっす!」
気弱な矢田の必死の訴え。
懸命に調べてメモをとったメモ帳を強く握りしめ、ブルブル震えてる。
矢田「百目鬼さんを惑わすのは止めて下さい、百目鬼さんは幸せになるべき人っす!すぐに出て行って欲しいっす!」
それが、まともな人の意見だ。
僕は顔色一つ変えずにジッと矢田さんの訴えを聞いていた。
矢田さんは、本当に百目鬼さんを慕っていて尊敬してる。真っ直ぐな良い人だ。だから、百目鬼さんも、矢田さんをそばに置いて雇ってる。
羨ましい…
マキ「矢田さん。僕は、貴方の尊敬する百目鬼さんがどんなに素敵な人か分かるよ。不器用で、自分を上手く表現できなくて、乱暴な方法しか出来ない。そんな自分を恥じてて、人に優しくあろうと努力してる可愛い人だってことも。だから、惹かれずにはいられなかった。百目鬼さんは素敵で可愛いくて、頼りになる男だ、だから好きになっちゃったんだ、本当だよ。百目鬼さんを騙そうなんて思ってないよ。安心して、僕は振られてるから」
百目鬼さんをべた褒めした部分に、矢田さんは悪い気はしないと表情を緩めていたが、僕の最後の言葉に、ボカンとした。
矢田「……?」
マキ「ふふ、僕は百目鬼さんに告白して、振られたの。百目鬼さんは僕なんかに引っかかったりしないよ」
矢田「ふ、振られた?」
マキ「ふふ、そうだよ、僕は男だもん、矢田さんが覗いたキスシーンは、酔った百目鬼さんが間違えただけ、百目鬼さん次の日にそう言ってたでしょ?酔った勢いでこいつは男だって」
矢田「……確かに…」
マキ「百目鬼さんは、僕に騙されるような人じゃないよ、立派な人だもん♪」
矢田「…そうっすよね…百目鬼さんは立派なひとっす!」
マキ「僕は百目鬼さんを看病してるだけ、心配なら百目鬼さんに聞いてみたら?」
矢田「うっ…、それは…」
マキ「矢田さんは、百目鬼さんを守ろうとしたんだよね、とでも素敵な部下を持って百目鬼さんも幸せだね」
矢田「え?あ…いや、俺は全然で…」
マキ「そんなことないですよ、百目鬼さん、矢田さんがいつも一生懸命で真っ直ぐな奴だって褒めてたよ」
矢田「え!?そ、そうなんすか!」
マキ「ところで矢田さん、僕の事を調べたのは、矢田さん一人で?」
矢田「そうっす!俺一人でやったっす!俺も百目鬼探偵事務所の一員っすから!……でも、最初にマキちゃんの事を怪しいって言ったのは賢史さんで、流石刑事さんって思ったっすけど、百目鬼さんも最初っから男だって気づいてたなんて流石っす」
ふーん。
単独だけど、吹き込んだのは賢史さんか…。賢史さんは、一体何から百目鬼さんを守ろうとしてるのかな?
賢史さんに言った帰る日からだいぶ経ってるし、なんか言ってくるかも…。
百目鬼さんも、振り向いてくれなさそうだし…
潮時かな…
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
462 / 1004