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津島のこころ(2)
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その日の夜、俺はまこちゃんのいる部屋で、沢口と向き合って座っていた。
「告白の返事の前に、沢口に聞いてほしい話があるんだ。俺と、誠についてのこと」
「ああ。聞くよ」
沢口はいつもと変わらない軽い調子でそう答えた。
「あの、まず…沢口はよく茶化してきたけどさ、俺と誠は付き合ってない。ただの友達。長い期間同居してただけ」
「うん」
「誠が出て行ったのは、俺があいつに告白されたとき、ひどいことを言ったからだ。気持ち悪い、普通じゃないって」
沢口の顔を見るのが怖くて、俺は下を向いた。
「俺が悪いんだ。言っちゃいけないことだって理性ではわかってるのに」
「じゃあ、俺のことも気持ち悪いって思ってる?」
「ち、違う!そうじゃなくて…」
膝の上で拳をぎゅっと握りしめた。
「…怖いんだ」
「何が?」
「俺は…そっちの世界には行けない。同性愛者として生きることなんてできない」
「だったら、ルームシェアなんかしてないでさっさと彼女作って部屋を出てけばよかったじゃん」
「それは…できなかった」
実際、彼女がいたこともあった。でもだからといって、部屋を出ていくことなんてできなかった。
「…どうして?」
沢口はつまらなそうに聞いた。
「……誠から離れられなかった」
「………」
「でも俺は、恋人とか夫婦とか、そういうのになりたいわけじゃない。ただ一緒にいたいだけなんだ。なのにどうして進まなきゃいけないんだ?誠や沢口は、なんで進もうとするんだよ?」
「好きだからだよ!」
沢口は怒ったように即答した。
「一緒にいるだけじゃ足りない。お前に触れたい。気持ちを通じ合わせたい。独占したい。そう思ってるからだ。お前は違うのか?」
「…そんなの、考えたことない」
「じゃあ考えてみろ。大平はもうすぐ入籍して正式に結婚する。そしたらもう一生会えない。お前が勇気を出さないから、一緒にいることすらできなくなるんだ」
沢口はそう言って机の上に紙を叩きつけた。
「…何これ?」
「大平の実家の住所」
「えっ?なんで沢口が?」
「大平は覚えてなかったみたいだから言わなかったけど、俺と大平は同じ中学校に通ってたんだ」
「えええっ?!そんなの言えばよかったのに…」
「久しぶりに会ったらずいぶん雰囲気違ってたから、あの頃のことはあんまり思い出したくないだろうと思って」
「うん…?」
中学時代の誠、どんな感じだったんだろう。
「会いに行けよ」
顔を上げて沢口を見ると、沢口は無表情で俺を見つめていた。
「お前の本当の気持ち、伝えてこいよ」
「…うん」
俺は紙を取り、ポッケにしまった。
沢口がいなくなった部屋で、俺はまこちゃんを見つめている。
「まこちゃん、沢口はすげーいいやつだね」
まこちゃんは人間になることはなく、水槽の隅でじっと動かない。
「次帰ってくる時は、きっと誠も一緒だよ。だからちょっとだけ、お留守番しててね」
まこちゃんの姿を目に焼き付けて、俺は部屋を後にした。
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