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誠のこころ
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(誠視点です)
またここに戻ってきてしまった…。
東京から遠く離れた地方都市に俺の実家はある。
俺は地元でちょっと有名な政治家の一人息子で、小さい頃から厳しく教育されてきた。
俺は両親の期待に応えたくて、いつもいい子でいようとしていた。でもいい子を演じる度に、殺したはずの自分が存在感を強めていく。高校生のときついに耐えられなくなって、逃げるように東京の大学に進学し、就職した。もう二度と帰らないつもりで家を出たのに、俺は結局いい子を捨てられない。
「おかえり、誠」
帰ってきた俺に対し、母さんは冷たい目でそう言った。
「もう病気は治ったのよね?二度と、自分は女の子だなんて言わないのよね?」
「…うん。そんな馬鹿なこと言わないよ。結婚するんだし」
心の奥が、ズキッと痛む。
「相手の家とは今後良い関係を築いていきたいんだ。くれぐれも頼むぞ」
父さんは俺をじろっと睨んだ。
「俺は別に、お前がホモだろうがオカマだろうがどうでもいい。全部胸の中にしまって普通の結婚をしてくれればな」
「…大丈夫だよ」
父さんは俺のこと、道具としてしか見ていないんだと実感する。
もし俺が、他の家に生まれてたらどうなってたんだろう。もっとあったかくて、僕のことを受け入れてくれる家…。
次の週にお見合いが行われた。お見合い相手はけっこう美人で、おとなしそうな人だった。
「はじめまして。入江美穂です」
案外はきはきとしゃべり、お辞儀をしてにこっと笑った。
後は若いお二人で〜とか言ってお互いの両親が出て行って、二人きりになる。すると美穂さんは、少しリラックスした様子でつぶやいた。
「知ってますよ。性同一性障害なんでしょう?」
「…え?な、なんですか?」
「結婚相手のことくらい、ちゃんと調べます」
美穂さんはクスッと笑った。
「別にわたしは構いません。あなたと愛しあおうなんて思ってませんもの。子どもさえできれば、それでいいです」
「え…?」
「おちんちんはついてるんでしょう?結局男なんだもの」
「…ついて…ますが……」
俺が自分の体の中で一番嫌いなモノだ。これがあるばっかりに、俺は女の子として生きられない。
「結婚式、楽しみですね」
美穂さんは何事もなかったかのように愛想良く笑って帰っていった。
そしてその後は、結婚の準備を進めつつお父さんの仕事を手伝う日々が続いている。
……つしまに会いたい。
つしまのことが好きだった。
つしまの作ってくれるご飯は、実家で出てくるものよりずっと安かったけど、何倍も美味しかった。
自分の殻に閉じこもっていた俺に初めてできた友達だった。
つしまと一緒なら、俺は俺のまま生きられる気がした。
つしまは……俺のことを受け入れてはくれなかったけど。
俺の居場所はもうどこにもない。
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