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ひねくれ者の、憂悶
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夢を見る日は決まって雨の日だった。
いつも同じ夢を見る。
ほんの少し昔のことを夢に見る。
はじめの登場人物は三人
父親らしき人と母親らしき人、それから少年が一人
別に珍しくない
普通よりも少し裕福で普通よりも少し世間体を気にする両親だった。
幼い頃から少年はよく言い聞かせられていた。
お前は男なのだから男らしく
普通でよい人生を歩みなさい、と
少年は両親の言うことをよく聞き、両親の思い描く普通を歩もうとした。
普通に学校を卒業し
普通に就職
普通に結婚して
普通の人生を全うする。
“普通に”
それは少年にとって呪いだった。
それが正しいことなのか、正しくないことなのかもわからないままに
教えられてきたとおりに過ごした。
普通でなければいけないと
普通でなければ欠陥品
では、普通ではない人間はどうしたらいのだろうか
小さい頃からの教育
両親の言う普通の生活するためにはある程度の力は身につけなくてはならない
たくさんの習い事をして、自由な時間なんてほとんどなかった。
でもそれは必要なことだからと思い込み少年はその通りに過ごした。
そんな中、少年は気づいてしまった。
自分は普通ではない、と。
しかし、それでも高校生になるまでは順調だった。
自分が普通ではないことも
それがいけないというのも少年には理解出来ていたから
理解していれば簡単だ。
自分が普通じゃないなら
ただ自分の本当をしまい込んで隠してしまえばいいだけだから
少年は普通の自分をつくった。
父のため、母のため
そして自分のために
自分が普通でないなら異常なら、隠せばいい
普通を装い続ければいい
偽物の笑顔を貼り付けて偽物の気持ちを吐露した。
偽物の普通に険悪感を抱きながら少年は自分を殺し続けた。
周りにバレないようにひっそりと自分の心に蓋をする。
自分ではない誰かのために薄っぺらい笑顔を身につけ
興味もない女の子の話題では笑いながら相づちを打つ
少年の異常は自分が隠すことさえ出来ればなんの問題もなかった。
笑顔でみんなと同じだという顔をしておけば普通に見せることが出来たのだから
そう、たとえ自分が"異性に興味がなかった"としても
隠してしまえば特に問題はなかった。
問題はない、はずだった。
一方は高校生、片や高校教員
それも男同士
どこで間違えたのか、どこから間違っていたのか
少年は初めて、偽物の普通が耐えられなくなった。
しかし、これもまたどうしてか少年の想いは受け入れられてしまった。
まさに奇跡
ハッピーエンドとはこういうものなのだろうか
その日から一人の秘密が二人の秘密に変わった。
幸せだった。
幸せだったんだ。
だった、で気づいてくれるかな
壊れたんだ、何もかも
ハッピーエンドなんてそう簡単にならない
だって、俺は普通じゃなかったのだから
今まで向けられていた優しい眼差しはこちらを向くことは無くなり
友人だと思っていたその他大勢は気味の悪い好奇の目や凍てつくような冷ややかな視線に変わった。
ふたりの秘密は形を失った。
正直な話、俺にとってそんなその他大勢からの言葉なんてものは
さほど気にはならかった。
物を隠されたりとか壊されたりするのも仕方ないんだろうなと思っていた。
友達なんてのは所詮は名前だけのお飾りにすぎなかったということなのだろう
けれど、それは自分にとってどうでもいい奴らからだったから
その他大勢だからだ。
……あの人から貰ったものは違う。
何よりも暖かくて冷たい
それだけが忘れられない
捨てられない
綺麗だと見つめられた瞳は逸らされ
愛しいと触れ合った肌は拒絶を示す。
好きだと紡いだその声で何よりも鋭い言葉を放った。
先生、俺は好きだったんだ。
あんたの優しい瞳が
人より少し温い肌が、柔く甘い俺を呼ぶ声が
『気持ち悪い』
間違えたのは、いつからだ。
悪いのは俺だけ?
間違えていたのは、俺だけだった?
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