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酔っ払いに肩を貸して、移動しようとするところまではよかった。が、お会計ではぐでんぐでんの上司が奢るの一点張り。財布を取り出すと逆さまで開口。床で跳ねる小銭達。慌てる店員。ぼーっと突っ立っている上司。落合は焦りを羞恥心でいっぱいいっぱいになりながら、何とか小銭を拾い集めた。
(それもこれも、この人のせいで…っ!!)
ギッと睨みつけようとした先で、落合の肩に温かいものが横たわった。
おや、と思って顔を向けるとそこにはすーすーと穏やかな寝息を立てる上司の姿がある。
(…ぁ。)
親の仇でも睨んでいるような顔でいつも容赦なく叱り飛ばすから、今まで考えたこともなかった。鬼上司のあどけない寝顔は、少し若返って見えた。
(ぅ…わぁ…。)
寝息は酒臭くて有害なことこの上ないが、同世代に見えてしまう無垢な表情に落合は目をそらせない。鼓動が跳ねる。我妻に触れたい衝動に駆られる。これではまるで、と落合は上司から目をそらす。
以前、昼休憩の時。織戸とのやりとりを思い出す。
『ね~。落合君も行こうよ、合コン。落合君、けっこういいっていう子、いるんだよ~??』
織戸の誘いに落合は微苦笑を浮かべて、眼前で片手をひらひら振って断る。
『いや、今はいいや。…鬼上司の相手だけで手いっぱい。』
『え~。そんなぁ。今日の合コン、頭数足りないのに。』
『…けっきょく、数合わせ要員かぁ。』
織戸はムッとした様子で身を乗り出してきた。
『そういうことじゃないけど。でも、幾ら仕事がうまくいったところで恋愛感情は埋まらないんだよ、落合君。鬼上司をギャフンと言わせたところで、天から運命の彼女が降ってくるわけでもなし。』
『…まぁ、そうなんだけど。』
今まで起動していたノートパソコンを閉じながら、落合は宣言したのだ。
『俺、一途だから。他に浮気したくないの。』
格好をつけようとしたわけではなく、純粋に出た本音だった。一つの目標も成し得ないまま、他にはいけない。新入社員時代から怒鳴り飛ばされ続けた男を見返さない限り、落合は次に行けないままなのだ。
学生時代の恋愛は、新入社員になって忙しさにかまけていたら一方的にフラレて終わった。結婚には興味はあるが、まだそこまで安定は得られていない気がして、恋愛関係はそっちのけに終わっている。
(…っつか、何を考えているんだ、俺は。)
小さく苦笑いして、落合は寝入っている上司を眺める。片頬を人差し指で突っついたら、怒られてしまうだろうか。
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