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…だからか。オフィス全体の空気が、どことなく緩い。皆緩々と仕事に打ち込んでいる、といった雰囲気がある。
織戸は小さく伸びをして、向かいにいる相手に声をかける。
「落合君。私達、我妻さんがいないとどうしても緩んじゃうね。」
微苦笑する相手に、落合は数秒遅れて、ああ、と短く答える。…彼の変化を目敏く認め、水越がちゃかしてくる。
「お??どしたどした~。さては落合、我妻さん不足になっているな~??」
落合はゆっくりと口元に手を持っていき、少しだけ考え込んだ。やがて、笑って頭を左右に振る。
「…まさか。だって、あの上司だよ??いなくてホッとはしても、自分から近づきゃしないって。」
「あっは。だよな~。」
笑い合う二人に、織戸は頭を斜めにする。普段は、上司関連のイヤミに即答するはずの落合が今日は何を思ってかぼんやりしている。織戸はぽつりと小さく呟く。
「…気のせい、だよね。」
だって男同士じゃん、と織戸は背筋をピンと伸ばして、目の前に持ってきた書類に視線を移して、ミスがないか最終確認にとりかかる。知らず、指先に力がこもり書類の端に皺が寄る。
「そんな話、あるわけないじゃん。二人がそうなったとして、最後には結局どうにもなんないし…。」
小さい女の子のように、織戸は下唇をきつく噛み締めた…。
(ったく、昨日も残業だったってのによ。)
我妻が胸の内で暴言を吐きながら社外の自動ドアを潜ったのは、夜遅く。…昨晩ほど遅くはないが、世間でいう夕食時はとっくに過ぎた頃合だった。
(会議なんて、どうせ時刻通りに終わるわけねぇんだから、もっと早くからしろっつの。)
苛々しながら、会社前のアスファルトを踏みしめる。空はとっくに濃紺色に染まっている。空気は山奥の川底のように冷え切っている。吐き出した息が白くなるのも、どうせ時間の問題だろう。街灯が少ないせいもあるのか。数メートル先の人物像さえはっきりとしない。頭上に蔓延る幾つものネオンがギラギラと眩しく照り輝いているくらいだ。
街灯のオレンジに照らし出され、灰色というより黒にしか見えなくなった道路の傍を通ろうとした、時だった。
「我妻さんっ!!」
聞き慣れた忠犬の声がして、近くの街路樹の横に佇んでいたモデル体型の男が駆け寄ってくる。膝丈までのコートを羽織っているから、シルエットが普段より若干モコモコしていた。我妻は彼に気づかれない内に鼻をスンと鳴らして、ふいと明後日の方向に顔を背ける。
忠犬はやっぱり、顔を背けた部分しか見えていないらしく、不満げな声をあげる。
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