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「ちょ…、っと。我妻さん…??何してんですか…??」
間抜けな声を発した落合の頭の中は、未だにクエスチョンマークが飛び交っている。
落合にとってこの状況は、弱肉強食の自然界奥地でヨダレ垂らした肉食動物を前に、餌の獲物が優雅に座り込み、身繕いを始めたに等しい。つまりは…有り得ない。
「んァ??」
小首を傾げる鬼上司の返答は、色気の欠片もないにも関わらず、落合の耳には艶っぽく聞こえてくる。
(色ボケしている自分の耳を、毟って捨てたいと思う日が来るとは思わなかった。)
落合が黙っていると、上司が続けて喋りだす。
「…何って、お前ン家、室内で温かいから。体温調整のために脱いでんだよ。」
(だから、猛獣の前で身繕いすんのやめて下さいましって!!)
唸り出したいのを堪え、落合は肩を竦める。
「警戒心を解いてくれるのはありがたいんですけど、こっちに妙な幻想を抱かせる真似はやめてもらっていいですか??」
(こんな自分を試す真似、しないで欲しい…。)
落合は、静かに目を伏せる。期待している自分が恨めしい。もう一度、あの夜の浴室みたいにお互い疑いなく向き合えたらと、心の片隅で願っている。
はた、と我妻の手が止まる。
「幻想、ねェ…。」
相手の言葉を小さく唱えて、我妻はソファーにどっかりと座る。ソファーの軋む音が、落合の劣情を擽る。
「…アンタの目的は金でしょ??…なら、金を持ってとっとと帰って下さい。」
ぶっきらぼうに言って、落合は相手の元に歩みを進めると、深々と一礼しつつ、一枚の茶封筒を差し出した。…中身は、慰謝料分の一万円が入っている。
頼むから、と声は発さずにカラカラの口を動かす。ぱんっ、と勢いよく落合の両手に握られていた茶封筒の重みが消えた。やった、と思った矢先。
「…顔を上げろよ。」
長年の部下としての習性からか。素直に目線を上げてしまった落合は瞬間、後悔していた。
ソファーで寛ぐ我妻の空気は一変している。ネクタイの結び目を緩め、Yシャツの上から三つ目までボタンを外している。オフィスじゃ絶対目の当たりに出来そうにない、締まりのない格好。年上の性悪上司は口角を引き上げてニッと笑う。
「よくできたな、落合。」
そろりと細い腕が伸びてきて、相手のネクタイを鷲掴みにするとグイと近寄せる。年上の男は、誘うように落合の頬を撫でる。
「…そう、邪険にすんなって。俺はイイコにはサービスするタイプなんだから。」
足を組んでソファーに腰掛けた上司は、ポンポンと空いた席を叩く。
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