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「どっ、どこの社ですか!?すいません、俺、またポカやらかしたみたいで…。」
あわてふためく落合に、鬼上司は片腕を掴んだまま、離さない。
「…いいから、こっち来いよ。お前には灸を据えてやる。」
眉間に嫌というほど皺を寄せ、我妻は部下を睨みつける。
「…ここじゃ他の社員に迷惑がかかる。上の会議室が空いている。そこ、行くぞ。」
「は、はい…。」
我妻に連れられ、小さく震える部下を他社員が同情の眼差しを向ける。皆が落合に向ける視線は、まるで売られていく犬を見るものと、性質が似ていた。
渦中の二人が出ていく。数秒して、空気がふっと緩んだ。落ち着いてやっと、社員のほとんどが緊迫感を覚えていたのだとわかる。水越は自分の椅子に背を預ける。
(あ~あ、誰だよ。鬼我妻と落合がデキているって言い出した女子社員。ここに出てきて、今の落合とポジションチェンジしろ。あと、正直チビる。)
ノートパソコンに向き直るフリをして、水越は内心愚痴を吐く。
(これじゃ、その眉唾もんの噂も立ち消えるに決まっている。見ろ、同じ女子社員である織戸だって、あの二人にドン引き…。)
水越がそっとパソコンの隙間から、織戸を眺める。
そこには…驚きに目を剥く織戸の姿があった。
「え…っ。おい、織戸…。」
名を呼ぶ水越には目もくれず、織戸は余裕のない表情で席から立ち上がって、走り出す。ドタバタと、常に物静かな彼女とは思えない、なりふりかまわぬ立ち振る舞い。
「織戸…??」
水越の声が、まだ不穏さの残るオフィスにこだました。
会議室は、無人だった。
入口のドアから離れた、室内の奥に部下を導くと我妻は無言で壁とは反対側に向かう。
そこには、一直線に並ぶ窓があり、窓の上からはブラインドが下がっていた。ブラインドを全て閉め、光を遮った薄暗い会議室。唯一の明かりは、入口の扉、廊下から漏れる僅かな照明くらいだ。我妻は、たった一つしかない出入り口の扉に淡々と足を運ぶ。かちゃり、と内鍵を閉めると、我妻は部下に向き直る。
「…落合。」
声のトーンが、落ち着き払っていて部下の恐怖心をいっそう激しく煽る。
「お前に、言いたいことがある。」
一歩、また一歩と鬼上司は落合との距離を詰めてくる。
「お前は最近、俺に馴れ馴れしいんだよ。」
我妻は頭上に右手を掲げる。今にも振り下ろさんと高々と挙げられた、手。我妻は手を挙げた体勢のまま、部下の前に佇む。あとはスウィングするだけだ。
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