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02-15
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無論したくない俺はしないの一点張り。何度か誘いを断ると愁は残念そうにしながらだったけど諦めてくれた。俺の絵で絵しりとりとか絶対しりとりとして成立しないだろうし、黒歴史になること間違いなしだから、愁には悪いけど俺は絵描くのから逃れられて心底ほっとした。多分俺が絵を描くことなんてもう二度とないのだと思う。次は絶対愁に描いてと言われても描かない。自分の絵の下手さを実感するだけだしやりたくない。
やるやらないのやり取りを、俺等は長い間していたらしく椿の授業は感覚的には早く終わった。正直話は全く聞いてないし、教科書パラパラ読んでいただけだけど、まぁ真面目に勉強する気もないから良いかなぁ。卒業出来れば良いんだから、単位取れる程度に適当にしとけばそれで。
けれど、後になって考えてみれば、方法は酷かったけどあれもあれで俺の気を紛らわそうとしていたんだと思う。本当それで絵しりとりは最悪なチョイスだけど。それの良い証拠に愁は他の授業中も席を戻さず俺の隣にいたし、時々「大丈夫?」って聞いてきた。これで何度目だと聞きたくなる位には何度も。
でもそのお陰でまた取り乱すことはなく、今日の授業は全て終わって、放課後になった。愁はそのままバイトに行って、俺は一旦家に帰って家のことを少ししてからバイトへ向かう。
俺のバイト先は、中学の頃に世話になった人が経営している店。夜街中をぶらついている時に偶々オーナーと知り合って、その店に入り浸る様になって、オーナーとも結構話すようになった。相談も何度かしていて、その延長で「バイト探してるんだけど何処が良いのか分からない」って言ったら、「ここで働けば?」って結構軽いノリで誘ってくれた。最初は冗談かと思ったけど、本気だったみたいで、有難く働かせてもらっている。因みにオーナーは兄貴の高校生来の友人らしい。
「…あれ、昴流。ピアス減ったね。顔のも取ったの?」
そのバイト中、エプロンを付けて厨房に入るとオーナー―逢坂 優(すぐる)さん―が、トントンと自分の耳を指さした。優さんが触れたのは、俺がピアスを付けていた箇所に当たる場所。バイト中はここが飲食店なのもあるって髪の毛が落ちたらいけないから後ろで結んだり、前髪は耳に掛けたりしている。それもあってその変化に気付かれたんだろう。
「学校では減らした方が良いって愁に言われたんで。えっと…、両耳で15個?と後耳と、口の以外で肌出てるとこ全部…?」
「うわ、凄い取ってるじゃん。そりゃあ違和感ある訳だ」
取った数を伝えると優さんは俺に抱いた違和感に納得して、笑いながら前までバーベルで埋まっていた穴を突いてきた。最初は我慢できたけど擽ったくなって頭を振って抵抗したら直ぐ止めてくれたけどまた笑われた。「悪い悪い」って謝ってはきたけど絶対楽しんでる。
「でもま、ピアスなぁ…。お前の学校ここ等では良いとこだもんな。1つも開けてない奴ばっかな所ではお前の量は目立つのかもなぁ」
「…愁にも、言われました」
優さんも言うんだから、あの量のままだとあそこではかなり目立っていたんだろう。早くに気付けて良かった…のかな。中学の頃はサボっていたから学校でどう見られるのか気にしてこなかったし、外だと注目の的…って訳でもなかったから、言われてなければ気付いてなかった自信がある。
「俺んとこは馬鹿校だったしな~…普通に付けてたし勝手が違うからあんま言えねぇけどさ」
「…今も付けてますよね」
「左耳はなー。他のはもう塞がったんだけどね。俺も口に付けてたなぁ…。右耳はちょい拡張しちゃったし」
優さんの左耳には緑色のフープピアス。それ以外は特に付けていなくて、そのピアスも彩度が低い緑だから派手と言う訳ではないんだけど、優さんは黒やグレーに近い色が落ち着いた服ばかり着るから、そんな緑でも映えていた。それは俺が優さんと知り合った時にはもう付けられていて、その時からもう何年もつけていそうな、新品ではない輝きがあって。多分これは思い入れが強いものなんだと思う。他のを外してもそれだけ取れないんだから余計にそうなんだろう。
「ま、数何て気にしなくて良いんじゃねぇの?お前の場合、今はまだ…な。やり過ぎは駄目だけどさ。…って、流星にもうすんなって言われたなら増えることないか」
「…?どう言う意味ですか」
「お前の場合」って言う優さんのその言い方に引かっかって、首を傾げた。俺は"例外"って言われているようだったから。しかも「今はまだ」って?俺は今ピアスの数を気にしなくても良いけど、いつかはそうじゃなくなるってこと?それは、どう言う意味で?大人になったら、会社に入ったら。そう言う意味?…でも、優さんの言ってることはそんな風には聞こえなかった。
だから意味を聞いたのだけれど、優さんは俺が求めている答えを教えてくれることはなく「気にするな」と俺の頭を撫でて誤魔化した。
「友達出来た?…つってもまだ2日目だけど」
そして、分かりやすく話題を逸らされた。先のは失言で俺にあまり突っ込まれたくないことだったらしい。自分のことを言われていると分かっていてあやふやにされんのは嫌な感じがするけど、優さんは俺のことを考えて言っていることで、別にそれは俺のことを悪く言っている訳ではないのだと雰囲気で分かったから、逸らされた話題にあえて触れようとはしなかった。代わりの質問の答えが、分かり切ったことだったんだとしても。
「…俺には、愁がいれば十分だし。…第一、近づこうなんて誰も思わないですよ」
「それもそうかぁ…。良い子ばっかだもんな。中々話し掛けて来ないか」
優さんはそう言うけど多分、この学校じゃあなくても誰も寄って来ないんじゃあないだろうか。『目が合ったが最期』…何て大袈裟な噂で俺と愁には喧嘩売ってくる奴しか話し掛けて来ない。だからその目的以外で話しかけてくる奴は俺等のことを聞いたことがなかったか、あるいはただの馬鹿位だ。勇気があるって意味で。
俺は高校で友達何て作ろうとか思っていない。作る意味が分からない。愁がいるんだから、必要ない。愁はどう思っているか分からないけど、多分愁も要らないって答える筈だ。
「んー…俺的にはもっと世界広げてくれても良い気もするんだけどな…。…ま、無駄に多いよりは少なくても信頼できる奴の方が良いか。それに、お前が"こう"なってくれただけでも、な」
「ん、ぅ…っ?」
俺が友人何て要らないと答えると、優さんは眉を下げて笑い、俺の髪をくしゃくしゃって撫でてきた。何故か少し寂しそうにも見えた。その表情もだけど、また優さんに理解出来ないことを言われて首を傾げる。俺が「こうなった」って?俺自身は実感していない変化だろうか。そしてそれは、優さん的には良いこと?
「んー…喧嘩余りしなくなって怪我も減ったし落ち着いてきて良かったなーって?」
今度はちゃんと答えてくれた。けど、少し誤魔化された気もする。これは優さんの本心なのだと思う。なのにそう思ってしまうのは、他にも意味が含まれていたから?分からない。俺の気のせいなのかもしれない。そうじゃないんだとしても優さんが言わなかったってことは、意図的に避けたんだろうし、先と同様に無理に聞こうとはしなかった。
「折角なんだから愁と高校生活を楽しみなさい」
「…っ、はい」
くしゃりとまた優さんの指が俺の髪に絡まる。昔からこの人はそうするのが癖なのか俺を良く撫でてきた。けど、この人に撫でられるのは嫌じゃあなかった。名前のような優しさがある優さんの温もり。それに触れると嫌なことを忘れられた。その優しさに身を委ねる様に擦り寄りながらも、優さんが言ったことに頷いた。多分、楽しいことなんて無いんだと思うけど。
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