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03-14
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「…昴流?」
「……歯ァ食いしばれ。糞野郎……っ!!!」
「っぐ…、?!」
そう、自分に言い聞かせるように、椿の腹にまた拳を打ち込んだ。前と同じで力一杯殴ったつもりだった。でも入り具合が違ったように感じたのは、殴った場所の違いだろう。今回もまともに俺の拳を食らった椿は、腹を抱えて咳込んだ。
「い…った……。お前、自分の…っ拳の重さ自覚した方が…!良いんじゃない…っ゛?!!」
「…ふん、」
文句を言おうが自業自得だ。お前なんかに力加減する必要を感じない。八つ当たり……が含まれていなかったと言えば嘘になるけど、こいつはそれ相応のことをしたと思う。
一目惚れと言うのを百歩譲って認めてやるにしても、こいつは俺の意思を無視し過ぎだ。嫌だって言ってんのに止めないし、て言うかそもそも普通一目惚れってだけですぐこんな……セクハラの度を越したことをやって来るのかって話で。こういう奴のことどう言うんだっけか。ええっと、
「…かはんしん、くず」
って、これも愁が言っていた。又の名をヤリチン。使い方合っている自信はないけど、まぁド屑なのには変わりないだろ。
「それは……ごめん。我慢出来なくてつい?」
謝ってきたから反省したのかと思えば言い訳ときたもんだ。「我慢出来なくてつい」ってなんだそりゃあ。小学生みたいなこと言うなよ。
「だって昴流が可愛いから」
しかも俺のせいにしてきやがったこいつ。否、被害者は俺なんですけど。被害者面するなんてマジで小学生……嗚呼、そうだった。"みたい"じゃなくてこいつは『小学生』のコスモ野郎だった。こんな奴が高校教師って世も末だなとこいつを見て思ってしまった。
「お前にずっとこう言うことしたい位に好き。つーか好きだから抑えきかない」
嗚呼、もうほら。こいつの忍耐力まじで小学生。
そう言えば、こいつと似た者同士の愁も菓子には目がない。チョコをぶら下げたらかぶりつき、チョコを埋めれば掘り起こし。そろそろ止めた方が良いんじゃねぇかと言っても食べ続ける。なんなんだ。屑な一面を持つ奴は耐えることを知らないのか。ていうかこれは欲に忠実って言うのか?…否それにしたって、愁の方が忍耐力は……多分あるぞ。
「でも、そうだよな。ごめん。お前を守ってやりたい…って説得力ないよな」
「嗚呼」
ええ、そりゃあもう。今思えばそんなこと言っていたような気もしなくはない位の印象しか残ってない位に、説得力皆無だ。俺の話も聞かず手出してきたコスモ野郎に今更「守りたい」と言われても。他人の、しかも俺に向けての告白にどうこう言う資格はないかもしれないがもっと忍耐力を付けてからの方が良かったんじゃないのか。…その、せめて中学生レベルにまで。
確かに、こいつは。取り乱した俺に寄り添ってくれた。その時の優しさが嘘だと、あの告白を聞いたら誰だって疑いはしない。告白で終わっとけば、こいつ自身は信じられなくても、こいつの言うことだけは信じてやっても良かったかもしれない。ただ、簡単に言ってしまえばその後の言動のせいで台無しだ。プラマイゼロだ。寧ろマイナス点だ。自分の言ったことを信じてもらいたいなら少し位忍耐力鍛えないと多分無理だぞ。それは決して対象が俺に限ったことではなくて。
「そう、なんだけど。お前が好きって気持ちは嘘じゃないんだ。凄ぇ好き。今は説得力ないけど、お前に言ったこと全部本当で、お前を知りたい。何が辛いのか、知りたい。それから守りたい。…………でもやっぱり手は出したい」
「おい」
最後だよ。お前の駄目なところが最後に濃縮されているんだよ。そんなとこ言わなけりゃあ格好がつくのに、それすら正直に話すのはこいつのせめてなりもの俺への誠意なのか。…否流石に考えすぎか。ただ中身が王子様とはかけ離れた残念な奴ってだけだろ。
「全部、俺の本心なんだ。嘘は、吐いてない。今言うのも変な話だけどさ、――"俺"を信じてくれないか、昴流」
「俺を」則ち"椿自身"を、信じる。信頼なんて一切ない中で、自分も頷いてもらえる可能性だなんて低いと分かっている筈なのに。それでも椿はこんな状況で、プロポーズにも聞こえるそれを言ってのけた。こいつは鋼のメンタルなのだろうか。それだけはまぁ、褒めてやらんこともないけれど。
ただ、どう考えても手を出した後に言うことではなく、順番が逆だろうと思ったが、今更こいつに普通を求めようとも思わない。言うことやること無茶苦茶だけどこいつの目は本気で、椿が言う様にこれらの言葉に嘘はないのだと、思う。説得力が一切ない「守りたい」って気持ちも。
好きになれとは言われてない。気持ちに応えてくれとも。そう言う意味も含まれているのかもしれないが、そうは言ってこなかった。こいつが今要求しているのは、俺がこいつを、俺の世界に入れること。今までが強引なんだから、俺が好きなら良く漫画で聞くような「付き合ってください」って台詞を言えば良かったんだ。でも、そうしなかった。それは"あえて"こいつがこの言葉を選んだように、俺には聞こえた。信じた後は、付き合うのも、付き合わないのも俺次第。俺の選択肢が残された言い方。言いたいことは変わってしまうけど、言うなれば「友達からで良いので付き合ってください」…みたいな。
そりゃあ、こいつの言葉だけなら信じてやっても良いかもしれない。呆れる位の屑だが、今まで言ってきたことはこいつの本心だろうし。でも、言葉と"本人"の壁は、高すぎた。一度俺の世界に受け入れて追い出すこともできたけど、俺は頷けなかった。
「今、は。信じれる訳、ない…だろ」
そうしたのは、少なからず俺への気持ちと言う点では誠実であったこいつに、俺もそれなりの対応をしないといけないと思った、からで。俺がこいつを好きになる可能性なんて無いに等しいのに頷いたら、こいつを期待させてしまいそうだった。
椿は俺の返事に少し残念そうな顔を見せたが、すぐに「今はそれで良いよ」と俺に微笑みかけた。
「ま、仕方ないよね。…でも、信じてくれなくても俺はお前を見ているから。いつでも助けてやれるように。それで、昴流がもし、俺のこと信じても良いかなって思ったら、お前が背負ってるもの、俺にも教えて?」
「…そんな日、来ねぇと思うけどな」
こいつを信じるだけじゃなくて、俺の全てをこいつに曝け出す。仮にそんな日が訪れたのだとしても、果たして何日――何年かかるんだろう。だって、好感度最底辺だぞ。まずそっから上げていかないと無理だろ。
「…ふふ、俺はしつこいよ。10年20年経とうとお前を口説き続ける自信はあるね」
「…っふは、マジでうぜェな」
俺が頷かない限りずっと追いかけられるとか、うざったらしいったらありゃあしない。そもそも、本当に永遠とこいつが付きまとってくるかどうかも分からない。それでも、椿に俺は好かれていることか、信じて欲しいと思われていることとか。頷かなかったら永遠にストーキングされることとか。そう言うこと、覚えておくだけなら良いのかもしれない。
こんな屑野郎大嫌いだし、小学生だし、コスモだし。ていうかそもそも俺告られる前に押し倒されたし。悪い所挙げたらきりがない。正直に言って駄目人間だ。だけど、そんなやつだけど。こいつの優しい目だけは悪くないと思った。
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