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藤隠が、凛に気まずそうに声をかける。
「…あんた、凛とか言ったな…。腕、どうなんだよ」
「大丈夫だよ…。青藍と天清くんが、手当をしてくれたからね」
力無く笑って凛がそう言うと、藤隠は微かに頷いて、僕と天清を見た。
「おまえら、せいらんとたかきよと言うのか。天狗と妖狐だな。種族の違う者同士が、そんなに仲良くしてる所を初めて見た」
「そう?まあ僕達は幼馴染みでもあるからね。じゃあ話してくれる?なぜ心隠さんがあんな風になったのかを」
藤隠は、大きく息を吐くと、陽が差し込む廊下を見ながらポツリと話し出した。
「…俺は、心隠の妹、流隠(りおん)の子供だ。赤子の頃から心隠にはとても可愛がってもらった」
凛が、「あ…」と小さく声を上げる。
不思議そうに凛を見る藤隠に、「その名前、知ってる…」と言った。
「昔に心隠さんの口からその名前を聞いたことがある。そうか…、君は、心隠さんの甥になるんだね。だからよく似ているのか…」
「まあな」
藤隠は、ぶっきらぼうに答えて、ふいと顔を外に向ける。
「母さんは、人間の父さんと出会って二十歳で俺を産んだんだ。父さんは、母さんが鬼だということを知っていた。それでも結婚して、母さんも俺も大事にしてくれたんだ」
外を向いているから、藤隠の表情がわからない。だけど、家族のことを話す藤隠の声は、とても優しかった。
「俺は覚えてないけど、俺が二歳の時に父さんが病気で亡くなった。母さんは、父さんがいなくなってからも、そのまま人間の街で暮らしていた。心隠は、散々この家に来いと言ってたみたいだけどな。でも母さんは、父さんとの思い出が詰まった街から離れたくなかったらしい。母さんとの暮らしは、微かに覚えているんだ…。裕福ではなかったけど、とても楽しかった記憶がある。だけどな、幸せは長くは続かないんだよ。心隠を見てわかると思うけど、母さんもとても綺麗だった。だからしつこく言い寄ってくる奴がいたらしい。そいつに無理矢理襲われそうになって、つい鬼の力を晒してしまった。そうなるとさ、もう化け物扱いだよ。母さんは、そいつが雇った連中に殺された。何かを感じた心隠が駆けつけた時には、もうダメだったんだ」
藤隠の声に混じって、微かに呻く声が聞こえる。
地下牢の中で、心隠さんが苦しんでいるのだろう。
そして、凛が静かに泣いていた。
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