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凛がゆっくりと起き上がり、枕代わりにしていたタオルで顔を拭う。すん、とひとつ鼻をすすると、藤隠の方に身体を向けた。
「心隠さんは、俺の命の恩人だよ。二十年以上前になるかな…。俺、かなりの高さの崖から落ちたことがあって、確実に死ぬところを、崖下にいた心隠さんが受け止めてくれたんだよ。『たまたま散歩していた』って言ってたけど、それでも心隠さんが受け止めてくれなかったら、俺は今ここにはいなかった。落ちる途中で崖から飛び出た木とかで怪我をしていたから、手当もしてくれた。…ふふ、その時ちょっとしたことがあって、心隠さんと銀ちゃんが揉めてたけど、心隠さんは俺にはとても優しかったよ」
その当時のことを思い出したのか、凛がクスリと笑う。
その顔を見て、もう三十の半ばを過ぎた凛だけど、見た目はまだまだ二十代で可愛いなぁと、僕も微笑んだ。
「銀…って、この前の怖い天狗のことかよっ?」
藤隠が、渋い顔をして吐き捨てる。
「そう。あの時は銀ちゃんがごめんね?俺を守るためには容赦がないんだ。でも銀ちゃんは、本当は優しくてすごい天狗なんだよ。俺の自慢の旦那様」
「え?は?旦那?」
「ふふ、俺達結婚してるんだよ」
凛が、優しい笑顔を藤隠に向ける。
藤隠は、眉間の皺を伸ばして、今度はぽかんと口を開けた。
「え?結婚?妖と人間が?」
「そう。子供の頃に出会ってすぐに結婚の約束をしたんだ。こんなにも大好きな相手に出会えて、俺は本当に幸せ者だよ」
「ふ~ん…」
凛の顔をじっと見つめて、藤隠は再び黙り込んだ。
僕は、もしかして藤隠はそんなに意地の悪い奴でもないのかもと思った。
妖と結婚した凛のことを驚いていたけど、男同士で結婚したことは気にしていないようだった。
時おり、手を繋いで歩く二人を、じろじろと見てくる人がいるらしい。中には、聞こえるように悪口を言う人もいるらしい。
鋼の心を持つ銀おじさんは全く気にしていないけど、凛は、微かに悲しそうな顔をする時がある。
それは、銀おじさんに対して悪いと思ってるからなんだ。自分は何を言われても平気だけど、自分のせいで銀おじさんが何か言われることが、とても辛いからなんだ。
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