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社長の重大発表
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金曜の夜、周平は同期の軽部と安田とともに、会社の近くの居酒屋にいた。
その前の週の木曜、社長より重大発表があると、社員全員が本社に集められた。
全部で50人ほどの小さい会社だが、ほとんどが客先に出払っていることが多いため、全員そろってみると、入社2年目の周平が初めて見る顔も何人かいた。
70歳を過ぎた社長の重大発表とは、会社を同業他社に売ったというものだった。
これから売る予定だというのではなく、すでに売ってしまったのだ。
社長は、ざわつく社員達をなだめ、社員全員の雇用を継続するという約束だから、安心していいと続けた。
売った相手は、業界では彼らの会社とは比較にならないほどの大きなところだった。
労せずして、この会社の社員になるなんて、君たちはラッキーだぞ、と冗談半分に社長は笑った。
そうは言っても、不安な気持ちは拭えず、とりあえず、同期で集まろうということになったのだ。
「入社2年目で会社がなくなっちゃうなんてな」
周平がため息混じりに呟いた。
「なくなるわけじゃないだろ。他の会社になるんだろ。
しかも、社員は全員雇用継続してくれるって言うし、ヒラ社員には、あんまり影響ないんじゃないか?
社長が引退して、会社は解散するから自分たちで次を探してって話より、ずっとマシだよ」
軽部が気楽に応えた。
「でも、雇用継続って言ってもわかんないぜ。
世の中、そんなに甘くないはずだ。
相手の会社だって、使えないヤツまで引き受けたくないのが本音だろう」
心配性の安田は、ずっと不安そうだった。
「社長は後継者がいないって言ってたけど、佐藤さんじゃ、ダメだったのかなぁ」
周平は、この話を聞いてから、ずっと、思っていたことを口にした。
佐藤とは、部長で会社のナンバー2的存在だった。
「その佐藤さんだけどさ」
軽部が身を乗り出すと、他の2人も彼に寄った。
「会社を辞めて、起業するらしいぜ。しかも」
もったいぶったように、軽部は一旦、口を閉じた。
「しかも、なんだよ」
安田がますます不安そうに聞いた。
「その会社に引き抜かれる人は、少なくないらしい」
「えっー!」
安田は崖から突き落とされたような、絶望的な声を出した。
周平は、その話を聞いても驚かなかった。
なぜなら、数日前、その会社に移る予定の先輩、浜崎から、一緒に来ないかと誘われていたからだ。
その時から、なぜ、佐藤さんは今の会社ではなく、わざわざ新しい会社を作る必要があったのかと疑問に感じていたのだった。
「いくら社長は引退すると言っても、やっぱり、なんだかんだと口出しはしてくるだろ。
それがうっとおしかったんだろ」
軽部の考えに、周平はそうかもしれないと思った。
「そんなことより、もし、その会社に誘われたらどうする?
俺は、自分を買ってくれてるってことだから行くぜ」
軽部が二人の顔を見て聞いた。
安田は、うまくいくかどうかわからない会社よりも、大手企業を取ると答えた。
周平が、まだ2年目で技術も十分に身に付いていないから残ると言うと、安田はとても喜び、軽部を裏切り者呼ばわりした。
実際、周平は先輩からの誘いをそう言って断った。
だが、断ったのには、もう一つ理由があった。
それは、その先輩と離れたかったからだ。
新入社員の頃、飲み会のあと、彼の家に泊まったことがあった。
その時、その先輩は周平がゲイであることを見抜いていて、家に誘って来た。
そして、周平もそれを承知で泊まりに行き、当然の結果として、同じベッドで寝た。
先輩のことを好きなわけではなかった。
ただ、なんとなくそんな雰囲気になった結果だった。
相手も同様だったと思うが、その夜以降、まるで周平に気があるかのような素振りで誘ってきた。
そのたびに、「あの時は酔った勢いですみません」と断った。
断られても、相手はひるむこともなく、ただ、「じゃあ、また今度、酔ったら?」と笑みを浮かべた。
その先輩はいつも自信満々で、仕事もでき、いつも他人を見下したような態度や言動をするので、周平は少し苦手だった。
あんなことがあっても、親しみを感じることはなく、むしろ、自分のいやらしさを見透かされているような印象を受け、さらに苦手意識が強くなった。
だから、彼が会社を離れると聞いて、安心したのが本音だった。
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