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声無き声 ー秀ー
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この二日間は恐ろしいくらいに長かった。
いや、この二日間だけじゃない。
俺が襲われてからずっと…。
清四郎がそばにいないことが、これほど怖く、ストレスに感じるなんて。
この前まで、10年離れていたはずだ。
なのに、何故…………??
約束の二日が過ぎた今日、朝から橋本さんは居なかった。
代わりに彰吾さんが、今日、清四郎が記者会見をするのだと教えてくれた。
「きっと、会見が終われば楠さんは君を真っ先に迎えに来るよ。」
「清四郎は…一人で頑張ってるのに…俺はなにもできないんです………。」
「秀君………。」
「なんて、ごめんなさい暗いこと言って。
大丈夫です。」
俺はそう言って、ダイニングテーブルの上に用意された朝食に手を伸ばした。
大丈夫と何度も自分に言い聞かせながら最近は過ごしてきた。
ろくに味のわからないものを必死で胃に流し込んで、眠れなくてもベッドに体を寝かせて目を閉じて夜を過ごしてきた。
橋本さんも、彰吾さんも心配してくれている。
何より、清四郎も一人で頑張っている。
悪いことのあとには良いことが必ず待っている。
こう教えてくれたのは、清四郎だから。
「秀君。」
昼ごはんも食べ終えボーッと空を眺めていた時、彰吾さんが声をかけてくれた。
「何ですか??」
「ニュースで今から楠さんの記者会見を生中継するらしいんだけど………見る??」
ドクンと心臓が跳ねた。
「清四郎が………。」
「どうする??」
「み、ます……。」
「リビングにおいで、紅茶入れるから。」
彰吾さんはそう言うと、俺の部屋を出ていった。
きっと、俺を一人にさせないように、一人で泣かせないように、彰吾さんは気遣ってくれたんだろう。
少しでも落ち着くようにと、きっと、アールグレイのロイヤルミルクティーを淹れてくれるんだろう。
みんな俺を気遣って、大切に大切にしてくれる。
橋本さんも、彰吾さんも、ここのメイドさんたちも、和也さんも、アキさんも、そして…………誰より清四郎が一番大切にしてくれる。
前、向かなきゃ。
そう思って自分の部屋を後にした。
「すご………い。」
本当にテレビで生中継されている。
こうして見ると、清四郎はセントラルオフィスという大手企業の社長で、日本でも有名な人で、とてもすごい人なのだと実感する。
俺の恋人なんだもんな………。
普段、俺と一緒の時は見せない顔が画面には映っていた。
まるで別人のようなその人。
大人な男の人、品があって、歩く姿がとても優雅で、綺麗だった。
しかし、やはり二日ぶりに見た清四郎の顔は酷かった。
きっと俺にしかわからないだろうけど、顔は強ばっているし、疲労の色も出ている。
一睡もしてないんだろうな………。
おそらく食事だってまともにとってないだろう。
俺がいくら言ったって、自分からまともな食事は採らないんだ。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。
私、楠清四郎は今回の報道により会社の社員、系列会社、そのご家族に対し、多大なるご迷惑をおかけし、お騒がせ致しましたことをここにお詫び申し上げます。」
清四郎が頭を下げるとシャッターを切る音と共に画面が眩しく光だす。
そして、この一言から清四郎への質問が矢継ぎ早に投げつけられていく。
決して焦ることも、怯むこともしない、清四郎は堂々としていた。
でも、どこかおかしい。
変と言うべきか。
清四郎だけど清四郎じゃないような…。
「楠さん、秀くんがそばにいるときと顔が全然違うね。」
突然、彰吾さんがおかしなことを言う。
「どこが違うんですか??」
「うーん…うまく言えないけど、秀くんがいるともっと……何て言うかな…生き生きしてるって言うか…。」
「たぶん、ちょっと不安なんですかね。
寝てないし、ご飯も食べてないみたいだし…今にも倒れそう……。
でも、きっとこんなちょっとした変化なんて俺たちぐらいしかわからないと思うんですけどね。」
『そばにいてほしい。』
画面のなかの清四郎が、そんなことを言っているように思えた。
もちろん、実際に言ってもいないし顔にも出ていないが、なんとなく………。
声なき声のでも言うべきか。
だったら…………。
「俺………なにしてんだろ。
行かなきゃ。
清四郎のところに…行かなきゃ。」
「秀君??」
「車、出してもらっていいですか………俺……。」
「すぐに出すよ。
表で待ってて。」
「はい………!!!」
多分彰吾さんは俺が会場に行きたいと言うのを予想していたのかもしれない。
もしかしたら、橋本さんもわかった上で彰吾さんを置いて一人で出掛けたのかも知れない。
俺の口から言わなくちゃ…………。
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