アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
閑話1
-
金扇綴には毎日の日課がある。それを行う時間は朝だったり夕方だったり夜だったりとまばらだが、やることを怠ったことは一度もない。
今日は、夕食を済ませて一息ついてから始めるようだった。
綴はタンスの中に綺麗にしまっている着物を取り出した。柄は濃い青色のなかに蓮花の花が咲いている。肩まわりの柄は少ないが、裾にいくにつれて柄が大きくなっていた。
綴は着物用の下着に着替えると、慣れた手つきで着付けていった。
男性用の着物ではなく、女性用の着物。つまり、着付けも女性と同じように着付けていく。
着物は舞用の裾引きの着物であり、おはしょりを作らない。その上、特殊な着付けであるので一人で着るのにそれなりにコツがいる。
しかし、幼い頃から着物に親しんできた綴にとって朝飯前だった。
着替えると、綴は裾を引きずらないように褄を取って机の方に歩いた。
机の上には、事前に開いておいた舞の演目がずらりと書かれたノートが開いてある。自分が習ってきたものをまとめた手作りのノート。それを見て、今日練習するものを決める。
先月伊佐美様には花唄を褒められた。その時は扇子を使わなかったから、今度は使ったバージョンを披露しようか。
綴は引き出しから舞用の扇子を取り出して、テーブルなどを寄せた部屋の真ん中に立った。そこから膝をつき正座になる。
そのときから、綴の頭の中には幼い頃から叩き込まれた演奏が鳴り響いていた。
明るい曲調のなかに、花を慈しむ悲恋の遊女の姿が紛れる。歌詞と演奏のギャップがこの唄の見どころだ。
桜が舞っているのか、扇子を頭の左上から右下へヒラヒラと舞わせる。一回転。ここで衣装を着ていれば、お七結びの帯が開いて美しい体のラインが見えるのだ。綴は自分のそんな姿を想像しながら舞うのが好きだった。
下に持ってきた扇子を閉じて、そのまま垂直に上に持っていく。
視線はそのまま、扇子だけをぽとりと落とす。
綴はそのとき、未だかつて出会ったことのない男と出会う。遊女である自分とは決して交わらない人生を歩むその男に、心を奪われているのだ。
見られるのが恥ずかしいとでもいうように、着物の袖で己の顔を隠すような仕草をする。しかし、それでもそちらに引きずられるように綴の体は先ほどの目線の方向へ動く。着物の裾を巻き込まないように、綺麗に広げた状態を保ってすり足で動いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 569