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金扇屋の陰間達
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目が覚めたときには、窓の外は山中から東京の建物群へと移り変わっていた。家まではここからあと20分ほどで着くだろう。
「お疲れのようですね」
平田さんがバックミラー越しに言った。
「いえ、お腹が空いて力が出ないだけです」
そう笑うと、平田さんも微笑んでくれた。
東京の建物群の中に、突如として現れる紅色の門。そしてそこから左右にのびる紅の壁が、俺の家がある関東最大の花街「朱屋町」を囲むように建っている。
車がゆっくりと街の中に入って行く。
普段観光客で溢れている大通りも、早朝は静けさに包まれ、ここが東京のど真ん中であることを忘れてしまうほどだ。
建ち並ぶ茶屋の前では着物姿の仲居さんや修行中の芸者が箒でゴミを掃いている。茶屋の前の赤い提灯の火は消され、夜の鮮やかさが夢の世界だということを教えてくれた。
朱屋町は景観保護地域に指定されているため、一定の高さ以上の建物を建てられない。この街で一番高い建物は俺の家が営む金扇屋の金扇楼だ。それでさえ3階建てなのだから、この街がどれだけ景観保護に尽力しているかが伺える。
車が進んでいき、丁度街の真ん中まで進んだところで、渋漆塗りの塀が右手に現れた。そしてその中に、大きな、とても大きな日本家屋が建っている。
これこそ、金扇家の本宅、俺の実家である。
横80メートル、縦50メートルの長さの塀の内側に、本宅と、そして陰間用の住居が建っている。
また、塀の中には入っていないが本宅の隣には金扇楼という金扇屋のお店があり、3階建てだ。
塀の真ん中には青い大きな暖簾がかかっており、そこをくぐれるのは馴染みのお客さんか家の人間だけである。
しかし、そこは基本的にはお客さん用なので、俺も家の人間も原則裏口から入ることになっている。
車は表で停まった。
「いつもいつもありがとうございます」
降りる間際そう述べると、平田さんは皺の多い顔にさらに皺を刻んで笑った。
「お疲れのようですから、お仕事もほどほどになさってくださいね」
「ありがとうございます」
最後に会釈をし、車は朱屋町の出口のほうへと走っていった。
それを見送り、俺は頬をぷにぷにと触った。
裏路地を通って裏口に回り、俺は取手に手をかける。
そんなに疲れて見えるだろうか。京にも心配されたし、これがお客さんに見破られてしまっては陰間失格だ。
パチンっと頬を叩いてから、裏口の鍵を開けた。キィッと音を鳴らして扉が開くと、その先に着物姿でしゃがみこむ少年がいた。
くせ毛で栗色、まだ髪をのばしている途中のその少年には見覚えがあった。
それは少年も同じだったようで、バッチリ目が合うと、少年はカラコロと下駄を鳴らして走り寄ってきた。
「柊兄様!」
「鶫! 久しぶり!」
腰に抱きついてきた鶫を抱きとめると、ふわりと石鹸の匂いがした。
鶫の変わらぬ姿にえも言われぬ安心感が胸を覆った。
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