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水族館、見えないところで*
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オープンしてから2年経った水族館は、だいぶ落ち着いてきたようだけどまだまだ休日はかなりの人出だ。
…にしても、さっきから落ち着かない…。
理由はそう、……ものすごく人の視線が痛い……!!…!!
「…………なんか…俺ら、見られてる…?」
千秋がボソッと言ってくるのも納得だった。
周りの人たち…、特に、斜め前の方向に陣取ってウーパールーパーを見てるらしい4人組の女子高生っぽい女の子たち…。
不躾であからさまな視線をさっきからガンガンぶつけてくる。
……ウーパールーパー見てないな、アレ……
「キャッ、こっち見た…!」
…しまった、そんなじっと見るつもりはなかったんだけど、女の子たちのうちの1人と目が合ってしまった……
「ねえ、やだ。手繋いでる…!仲良い…!」
「わたしあの人好みかも…。色白で黒髪がめっちゃ映える…!
あっでもその隣の彼も超イケメン。捨てがたいわ〜」
あーー……星(あかり)と千秋も引き合いに出すんだ…、
「ねえ、でもどういう関係かなあの3人……もしかして三角関係?」
「えっ、何それ腐女子的な?」
「キャーーー!卑猥!えっち!」
…ちょ、会話………
……って千秋!そこで赤面するなよ…!?
女子高生たちの会話は全然遠慮がない…。
これだけ人が多いのにかなり響いてるし、千秋は女の子たちの会話を気にしてるらしく顔真っ赤だし(あのキスのせいかな)。
唯一、星(あかり)だけは周りを全く気にせず俺の手を引いて先へ先へと順路を歩いていく……。さすが大好きな海洋生物たちを目にしてそっちに集中してるらしく、周りのどよめきになど全く動じていない……
カッコいいな、もう。
「なんであの2人、手を繋いでるのかな」
「シッ、聞こえるよ?」
「聞こえるように言ってんのよ」
「あの…すみません、ちょっといいですか?」
とうとう女子高生のうちの1人が、一番前にいる星(あかり)に話しかけて来た。
「何ですか?」
受け答えする星(あかり)、その後ろに星(あかり)と手を繋ぎっぱなしの俺、隣に千秋が揃ったところに女の子たちが興味津々で
「高校、どこですか?あっ大学生です?」
「後ろのお兄さん、金髪ですよね。ハーフかなんかですか?めっちゃカッコいいです!」
「隣のお兄さんってもしかしてタレントさんですか?なんか見たことある…」
「何で2人、手繋いでるんですか?もしかして恋人ですか?……なんて!キャッすみません!!」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる女子高生4人…。
芸能人の囲み取材みたいだな…
てゆーか、恋人ですか?って……!!
どう答えようか考え始めたところで急に星(あかり)が口を開いた。
「ここって水族館だよね?」
……んん…?
エッジの利いた、鋭く刺さるみたいな声。
その場にいる全員が、星(あかり)の言葉の意図を測りかねて急にシーンと静かになった。
星(あかり)の表情をそっと伺ってみたけど、一切怒ってるような顔はしてない。むしろ爽やかすぎるほど綺麗な微笑み。……だけど
「あと、……この人とこーやって手を繋いでるのが、きみらの人生にどう関係あるの…?
分かるように説明してくれるかな」
あ、…えーと……
めっちゃ怒ってるーーーー!!
女の子たちはご、ごめんなさい、と口々に言って文字どおり散って行った。
なんかもう、ぼう然…。
星(あかり)ってこんなんだったっけ……
いつものスマートさが微塵もないんだけど…
「星(あかり)、」
「せっかくあっくんとデートなのにさ。
……邪魔なんだよね」
、……、は、……、
小声だけどハッキリ分かる、不快感…
思わず千秋と顔を見合わせた。
「あの……俺、邪魔ですかね…、」
千秋がボソッと聞いてきた。
そうだよね……一応、星(あかり)が誘ったからついて来たわけだし…
「千秋のことは言ってない」
素っ気な…!!!!!!
「あ、……あーー…、ならよかった…。
あっ、あ、あの、俺、ちょっと…、」
何かおみやげ見てきていいですか……?とかなんとか言って、千秋は星(あかり)と距離を取り、俺にだけそっと耳打ちしてきた。
「……先輩ってあんなだったか…?
とりあえずお前、どうにか機嫌取っとけよ。
…いったん俺、離れて行動するからさ、2、30分ぐらいしたらまた合流するから」
「え、別に千秋のことは言ってない、って今…、」
「え、ばかなの?明らか俺まで入ってるって、今の………
とにかく後で!変な気遣いたくないから!」
千秋はコソコソ言ってからササッと離れて別方向へ行ってしまった。
あーー…人にぶつかってペコペコしてるのが見える………あわてすぎ。
なんか。
気を遣わせちゃったかも。ごめんな……千秋……
さて………
よくわからない展開で予期せず星(あかり)と2人きりにはなったものの……
時間も限られているし、これは、ちょっと気まずい……?
隣を歩きながら、一心に回遊魚の水槽を覗き込んでる星(あかり)の、手の感触を確かめるとシュワシュワするいつもの感じがあまりしない。
星(あかり)の低い体温が俺の熱を奪うとき、シュワシュワとした感覚が手に残る。
これが少ないのは、星(あかり)が、…何かに熱中してて体温がヒトのそれにぐっと近付くときだった。
よっぽど海の生き物たちが好きなんだな…
瞳がキラキラしてる。
口が開いてるよ、星(あかり)……可愛い。
そう思った時だった。
「………い」
唐突に星(あかり)が何か口走った。
「…ん、なあに?星(あかり)……、何か言った?」
周りは俺らと同じように見に来ているたくさんの人たちがいて、それなりに騒がしい。
よく聞こえなくてたずね返すと、星(あかり)は急に俺を振り返った。
「……さっきからあっくん、何なの。千秋、千秋って。千秋ばっかり。うるさいよ」
「え」
いや、千秋はもう別の水槽のところに行っちゃってる、…けど……
てゆうか待って、千秋がついてきたのは星(あかり)が誘ったからじゃ…、
「や……、星(あかり)が誘ったんでしょ…。
だから千秋は」
「知ってるよ。だけどデート邪魔するかな?普通」
「待って、星(あかり)声、大きい」
俺の声に被せてくる星(あかり)を制して、比較的人けのない場所に誘導した。
運良く館内、ペンギンたちとラッコたちの水槽を抜けた奥の方に開けたスペースがあって、椅子がいくつか並んでた。
そこに星(あかり)を座らせ、自分も隣に座った。
「……あのさ。千秋とは本当に何もないよ。名前呼びなのも、もとはと言えば千秋が先に」
説明しようとすると星(あかり)は俺の両腕をがっと掴んできた。
「あっくんて鈍感なの?てゆうかわざと?
前は名前で呼んでなかっただろ。いつから?なんで?それとも名前で呼ぶ意味、分かんない?
あのコはあっくんが、…もうずーっと前からあっくんが好」
「それ、やきもちなの…?」
勢いに任せて言ってくる星(あかり)の言葉を遮って逆にたずね返した。
星(あかり)はハッとしたように俺を見た。
うわ…思いのほか冷たくて低い声が出たかもしれない…
ヤバいかなと思い始めたそのとき、俺の急な反撃に黙ってしまった星(あかり)は頬を小刻みに震わせて細く弱々しい声を出した。
「違う……そうじゃなく」
大きな瞳がゆりゆりしてる。
涙がぶわっとたまっていくのが見えて、
あ。あーーー………泣くのかな。これ…………
脳裏に一瞬「面倒だな」の4文字が浮かんだ。
俺からは伝えられないもどかしさが、普段長めにしてある導火線を一気に縮めた。
「……友だちを呼ぶのに、何で星(あかり)の許可が要るのかわかんない…。
俺、こう見えて友だち超少ないんだよ?
誰のせいか分かってンの?……ねえ、星(あかり)…」
手を伸ばした。
向こうから、人の声が聞こえてくる。
ペンギンたちの鳴き声も。ラッコたちがたてる水音も……
構うもんか。
腕を掴んでぐっと引き寄せた。
星(あかり)はあっけなくバランスを崩して俺の腕の中に入り込んだ。
上目遣いで見上げてくる瞳が一瞬不安そうに揺れて、でも俺はその奥底に揺らめくものが何かを知ってた。
星(あかり)の身体がひんやりしてるのは、ペンギンたちの生育環境に合わせて設定された空調のせいだけじゃない。
もちろん、ヒトじゃないからだ。だけど俺はもう止まれなかった。ブレーキはとっくの昔に壊れていた。
「…白状するけど俺も嫌だよ?星(あかり)が千秋を名前で呼ぶの……」
「……は、…っ、ん……ッ…ぅ…」
「……何、急に欲情してんの……星(あかり)……ここ、水族館なのに……やらし…」
話しかけながら答えられないように唇を塞いだ。
人が何人か、向こうから見てるのは知ってた。
---
(続く)
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