アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
12-③ 今の俺にできること
-
❁
キッチンに1番近い大きな畳の部屋。
ここがいつも桜野組の輩たちが食事をとっている場所だ。
大人数が入るように2部屋の間の襖をとり、繋げて大きなひと部屋にしている。
1人分ずつある小さな机のようなものに配膳されている料理と飲み物。
俺が座るのは実影の隣。
上座の1番近くだ。
「太陽くんお待たせ。ごめんね。」
「許さねぇ。」
「はは、それは困ったな。んーどれも美味しそうだね。さぁ食べようか。いただきます。」
実影が最後に席につくまで皆の視線は実影にあったのだが、実影が俺に話しかけたことでその視線は俺に集まった。
これから食事をするのというのにじろじろ見られては気楽に食べられない。
実に不快だ。
実影が食べ始めたのを合図に皆口々にいただきますと食べ始めた。
それからもチラチラと向けられる視線。
だから嫌いなんだ。
大人数で食べるのは。
早くここを逃げ出したい。
そんなことを思っていてもチラチラ見ながらも周りは黙々と食事をしている。
こんなに集まれば楽しく会話をする人間もいると普通は思うだろうが、ここはヤクザの集まりだから他とは訳が違う。
食事中は基本私語禁止なのだ。
というか、実影が喋らなければ喋ることができない暗黙の了解のようなもの。
この空気も嫌いだ。
食事は会話をしながらわいわい食べるから美味しいし楽しいものなのにどうして静かである必要があるのだろうか。
これでは1人で食べているのとかわらない。
ストレスからか胃に入らないものたちを無理やり押し込んで水で流す。
それでも不快感は消えない。
タラタラと半分ほど食べたところでもう食べる気にもなれなかった俺は仕方なくそのまま残した。
残されたご飯の縁が乾燥でもうカピカピになっていた。
周りは俺が食事を残すことはあらかじめ理解してる。
毎度こんな感じだからだ。
それでもここで食べろというのだからどうしようもない。
お世話になっている体でこんな態度を皆に晒すのは良くないことくらいわかってる。
わかってるけど……。
ごちそうさまでしたと手を合わせ足早に会場を後にする。
もう今度は絶対に騙されないと誓いを立てて廊下をずんずん歩いていると、きゅっきゅっと後ろから鳴る足音。
実影が俺を追いかけてきている。
俺は一旦歩みを止めて首だけ振り返った。
「もう食べ終わったのか?」
「うん、全部食べたよ。きちんとご飯食べて偉かったね太陽くん。」
「無理やり連れてきたくせによく言うよ。」
「ごめんね。今からは僕の部屋に行ってゆっくりしよう。」
「…うん。」
実影は嘘つきだ。
実影だって半分しか食べてなかったくせに。
俺が食事をやめていなくなると追いかけてくるのは毎度のことだから。
でも俺はそれに気付かないふりをしている。
これは優しい嘘なんだ。
俺だってそれをわかっていて先に会場を出るのだから、小悪魔的なそんなやつだ。
きっと不安なんだ。
実影に愛されているのかなんてこんなことで試さなくてもわかっているはずなのに。
恋ってこう黒っぽいものなんだろうか。
なんて考えてみたって経験の浅い俺にはどうせわかりっこない。
この感情が何なのかなんて恋愛マスターでもない俺にはわからない。
心の中でため息をついた俺はまた歩みを再開して実影の部屋へと向かう。
もちろん実影も一緒に。
今はこの2人の時間を大切にしよう。
それくらいの事しか、今の俺にはできないのだから。
部屋につけばどちらともなく唇が重なる。
これでいいんだ。
これが今の俺の幸せだ。
誰よりも近くで。
実影の体温を感じて。
離れないように絡みついて。
抱きしめて。
その声を聴いて。
包まれて乱れて。
そうだ。
これ以上の幸せはきっとない。
分からなくたって。
それでいい。
離れたくないなら。
離れなければいい。
分かりたいなら。
感じればいい。
それでも離れるときがくると言うのならば。
俺は運命に従うしかない。
❁
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
65 / 76