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マスク越しの唇はさっきから小さく震えているし、3倍の大きさにでもなっているんじゃないかと思うくらい心臓が苦しく、うまく呼吸ができない。
自分のものではない車のドアが閉まる音を聞き、可能な限り深く空気を取り込んだ。
…そんな事をしたところで意味がないのは知っている。
何でこんなに緊張しているのか。ほんの数日前までは、むしろこの時間を求めていたというのに。
自らの心情の変化に自分自身が追いつけていないなんて、いい年をしていながら困ったものだ。
雨の降っていない、まだ明るいそこでは
あの日を繰り返すことなんて無いのに。
「竹内さんがそんなに身構える所、初めてみましたよ。取引先の方と話す時だって澄まし顔を貫く癖に。」
「……うるさいな。」
唾を飲み込み、汗ばむ手をぐっと握って入った扉の向こう。
「いらっしゃいませー。」
けれど、俺を迎える声は想像していたものとは違っていた。
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