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どうして心はいつも、俺の邪魔ばかりしてくるのだろう。
初めて佐々木から「男が好き」だと暴露された時、少しも共感など出来ずに無難な返事をした。その時は、わからなかったんだ。本当に。
…なのに、徐々に芽生え始めたのは嫌悪や気まずさではなく、言い表しようのない生き苦しさで。
俺ではない他の誰かに寄せていると思っていた佐々木の感情が、こちらへ向いてくれたならどんなに幸せだろう。そう考えるようになっていった。
だが、気持ちだけで越えられる壁でもなければ、目先の事しか見ずに突っ走れる年齢でもない。理性は何度も自らを責めたし、佐々木ばかりになっていく自身の脳味噌には呆れるほどだった。
オブラートに包みながらも事の重大さを教えてくれるのは、俺に好意を寄せているらしい法月。彼の上っ面でない本当の優しさがそこにあったのだと、痛いくらいに理解出来る。俺はまた、取り返しのつかない事をしてしまったのだ。それこそ俺を想って説教をし、相手探しまで手伝おうとしてくれたあいつには顔を向けられない。
言った言葉は取り消せない。でも今ならまだ、そんな訳無いだろうと笑ってかわす事が出来る。このタイミングを逃したらチャンスは二度と訪れないに違いない。
……他でもない俺が、ほんの数刻前に最も恐れていたその台詞を?折角心が通じ合えたのに、俺はまた佐々木を失うのか?
「……ねぇ、それ…本当?」
佐々木の空いていた方の手が、視界を横切り頬に触れる。
思わず彼に目を向けてしまった事をどこまでも後悔した。
「俺、諦めなくていい…?あんたの事これからも大好きでいていい……?」
いつだって笑っていたお前の、怖気づいたような、不安そうな、弱々しい表情に……興奮した。
思考回路をぷつんと切られた頭はショートしたみたいに完全停止し、熱を持つ。
どうして涙で滲んでいるのに、よくもない目ははっきりと佐々木だけを映すのだろう。
随分と水分を含んだ目は赤く、今にも外に零れだしそう。必死に眉を歪めて堪えている様が、あまりにも健気で愛おしく、あまりにも強くて格好良く。
頬から外れた指先は耳の後ろへと滑り、耳朶を擽り弄ぶような手つきでマスクの中を暴いた。新鮮な空気に晒された口元は上気した息を外に逃がし、人工的な冷風に晒されて喉の乾きを覚える。
被せられた掌に重みが加わり、沈んだ隣は僅かな布摺れの音を立てて。
「ね、暁人さん…キス、していい?……したい、好きな人だから。」
「……っ、」
言葉なんか出てこない。それでも、訴えてしまう。目で、呼吸で、身体で。
とっくに沸騰しきっている血液を限界以上の力で循環させる心臓が、今すぐ爆発しても後悔はしない。
ただただ欲しいと求める本能は正直で、近づく佐々木の影に隠れて
目を閉じた。
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