アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
天使クン
-
脱色染色は校則違反らしく、みな黒い髪をしている。
アクセサリー類も禁止だそうだが、俺の耳には幾つも幾つも穴が空いていて、じゃらじゃらと複雑にシルバーピアスがぶら下がったまま。
仕方がないから、1日目の言い訳は「ついさっき知りました」で行こうと思う。
特に真面目に勉強したわけでもなく、成り行きで入学したしがない私立高校だが、学生生活の楽しみなんざは自分でつくるもんだ。
俺は徐に顔をもたげ、軽うく教室中を見渡した。
高校生としての三年間は非常に重要で、その日々が一日欠かさず青春の一ページとやらになるわけだから、皆は入学早々から もう必死だ。
女子達のほとんどは、グループ作り、またはお目当てのグループの輪に入れてもらうことに命を懸けているらしい。
傍から見れば痛々しい... いや清々しいほどの必死さだ。
群れ合う男子共はそれぞれが目立ちたがり、出しゃばりで、それが集団になってしまえばうるさいの一言。
中には、早々から除け者にされている根暗そうな女子、1匹狼を気取る不良っぽい男子、イヤホン装着で突っ伏し完全に自分の世界に閉じこもっている者も数名。…決まって俺は、こいつらからターゲットを搾る。
何の だって?
俺の味気ない学生生活に刺激をくれる飛びっきりのスパイスと言えば分かりやすいか。
根暗男女は気の小さいやつが多いから単純にイジメ易いし、いきがった不良を弄り泣かせるのは非常に痛快。 ... そして、入学早々退屈そうにしているやつへのイジメは、生活を愉快なものにしてやるための、まったくの善意だよ。何てな。
春風をよく受ける窓際の角席。
ターゲット数名を見比べては、まだ対象も決まっていないイジメへの妄想で、俺は危うく口角を緩めかけていた。
「ねえ、あの…」
肩を、遠慮がちにつつかれる感触。
気を抜いていたから大袈裟に驚いてしまった。
振り向いた先には、
ターゲットでも何でもなかった、何ならばまだクラスメイトとして認識もしていなかった男子生徒がいた。
ほんのりと栗色の髪、男にしては白過ぎる程の肌。縦に大きな愛嬌のある目。とにかく色素が薄く、黄色人種の群れに白色人種が混ざりこんだかのような透明感だが、この幼い顔立ちを見る限りは純日本人か。
危うく見惚れ、穴があくほど見つめては数秒。
我に返って、胸元の校章にでも視線を逸らした。
女顔で幼顔のこいつは、線の細い体をもじもじさせて、初めて口を聞く俺に少しばかり人見知りをしている模様だった。
「髪に、桜の花が。窓閉めた方がいいよ」
「あ?…あぁ」
ぬるい風が心地良かったのに。
手櫛で無造作に髪を梳けば、指摘された通り、桜の花びらが数枚、はらはらと机に落ちてきた。
話すきっかけにする程のことかは、さておき。
こいつ、何で俺に話しかけて来たんだろ。
「すっごいピアスだね。いいなあ かっこいいなあ」
第一印象はシャイで物静かそうなやつだったが、次の瞬間戯れてきやがった。
距離感の掴めない、または気にしないタイプなのか、ちょこんとしゃがみ込んで俺の顔を覗き込んでくる。その後指で挟むように耳を触られて、不快中の不快だったが、俺はひとまず冷静を装った。
「…お前、名前なんてーの」
鬱陶しげに首を振りながらそう聞いてみれば、
こいつは途端口を噤んだ。
次に、林檎のごとく真っ赤になって、目を泳がせた。
名前を聞かれただけで随分面白い反応をしてくれるが、教えるのも躊躇するほどの名前は、もっと面白いんだろうなあ。なんて考えながら期待の眼差しを向ければ、こいつはとうとう結んだ唇を解いた。
「て、天使って 言うんだ、冗談じゃないよ…」
ド ド ド キラキラネームじゃねえか。
天使と書いてエンジェルじゃないのが些か残念だが。
「その面で天使って、もはや嫌味だな」
「酷いなあっ
名前も顔も生まれ持ったものなんだから、仕方ないじゃないか」
おいおい、その返しはまじで嫌味だぜ。
名前が天使…高校生になっても慣れないほどコンプレックスを持ってるらしい。が、容姿は正に美少年。
気は小さいのか大きいのか分からんが、負けん気の強そうな所は気に入った。
「お前、散々イジメられたろ」
「…うん」
「はは、やっぱり。
… 俺と居たら、誰からもイジメらんねーぜ。
ちょっと浮くかもだけど」
「あは、ほんとかよー」
無邪気に笑いながら、またピアスをいじってくる。照れ隠し混じりにも、本気で喜んでいるのが見て取れる。
イジメられっ子だったこいつの心を掴むのは、器用なイジメっ子には容易いことだった。
…中途半端に好かせて、こいつとトモダチになろう。
仲良し小好しごっこを繰り広げ、“普段からセットで居る2人”と周りに認識させたあとで、たっぷり、それはそれは存分にイジメてやる。
そんな考えを巡らせひとりほくそ笑んだ頃には、
もう、俺の視界において他のターゲットはモブ共に御役が切り替わっていて、
漂う邪心の矛先はといえば、もちろん、
傍で愛嬌いっぱいに笑っている天使君へと目掛け、しっかりと突っ刺さったのだった。
✕ ✕ ✕ ✕
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 11