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いじめっ子といじめられっ子
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「偉主郎くん… 煙草なんて、体に悪いよ」
「てめぇに何の関係があんだよ」
珍しく冷静な面して、笑っちまう程普通のことを言ったこいつに、俺は冷めた口調で返した。
「あるよ。だって君は僕の」
「『ヒーロー』か? 『王子様』か? それとも『心から尊敬できる友達』か? …お前、言うことが一々クソ程寒いんだよ」
「ど、どうしたんだよ急に… 偉主郎くん、変だよ」
お前も余っ程変なんだよ、気付けよ。
突然態度を変えた俺を怪訝に思った天使が、恐る恐る近寄ってくる。
その距離が手を伸ばして触れる程になれば、その細っこい脚を軽々と払ってやった。
コンクリートへ仰向けに倒れ込む天使。
薄い腹が押し潰れるのも構わず、その上に腰を下ろして馬乗りになる。
「はは。勘違いしてんなよ、天使君」
「え… 」
「誰が、
いつから、
てめぇの友達になったよ
俺ぁ 一緒に居れば? つっただけだろうが」
違うか?と問いただしてやると、こいつは口を引き結んで黙りを決め込んだ。
その間も矢張りじっとこちらを見据えている。
じわ、と赤らむ目元。
眉尻が下がり、瞑った唇が震えている。
泣き出すのも時間の問題かと思えば、興奮が込み上げた。
「はは。気色悪いんだよ…
何言われてもヘラヘラ笑ってるくせ、他の野郎には興味なし。どこ行くにも背後霊みてーに着いて来るわ、頼んでもねぇのに宿題見せてくるわ、てめーは俺の犬ですか?」
「そんな、つもりじゃ…」
「あ? 口答えしてんなよ。実際もう俺の犬なんだよ。小中イジメられて来たお前が今から他で居場所を作るなんざ、不可能中の不可能なんだからよ…
でも 約束は守ったろ。
俺と居れば、誰にもイジメらんねーって…
“俺以外には” な。
俺ァ てめーの友達なんざ、そんな事1ミリも思っちゃいねぇっつーのにまんまと騙されて、駄目だなぁ… 恥ずかしいなあ!本当惨めな奴だな!」
気付けば呼吸を荒げ、早口で捲し立てていた。
俺に組み敷かれたまま、傷付き虚ろな表情を見せるこいつに興奮した。
いい子ちゃんのこいつが、唯一の友達に惨い言葉を浴びせられて、餓鬼みたいに泣いちまう所が見たかった。
だが、天使君は、
ぐっと押し黙ったまま、それ以上口を聞こうとも、泣きだそうともしない。馬鹿にされて嗤われてるってのに、顔を背けて嫌がりもしない。
…本当に気持ち悪い奴だ。
俺は無意識の内、ひくりと口角が引き攣るのを覚えた。
「おいおい、何とか言えって…
幾ら優等生気取ってても、ここまで言われっ放しだと流石に引くわ」
煙草がジリジリと燃えて、灰部分が長くなってきた。
幸い、灰皿には丁度いいのがここにある。
「おい、服脱げよ。燃えちまうぞ」
「脱…っ!? やだよ… 」
「つべこべ言ってんな、早くしろ」
思ったよりもこいつが強情で、俺はむきになっていた。
屈服させたくて必死だった。
シャツを肌蹴させ、露わにさせた白い胸元。
それを汚い灰で穢してやろうと、躊躇いなく煙草の先を揺すった。
「ひゔぁあっ! 熱い…!! 」
直ぐ様自由の効く手で灰屑を払って、滲みる様な痛みに悶え苦しむ天使。
当然の反応。
それにしても、余りにも良い声で啼くもんだから、下腹がずくりと重くなった。元々イカれた俺の頭が、変な気を起こしそうな感覚だ。
「はは、痛そうだな… 煙草って表面温度は800℃以上もあるんだぜ。エグい痕が残っちまうかもな。
ま、責任取ってこれからも飼ってやるから許せよワンコ」
すり、と胸元に紅く残るグロテスクな傷痕を指でなぞる。
一瞬の緊張に汗ばんだ肌を感じながら、残る煙草をコンクリートに押し付けた。
──── と、その時だった。
「んンっ…!!!」
思い切り身を引き寄せられ、端正な顔が迫る。
避けられないままに呆気なく唇を奪われ、その柔らかな感触が俺の頭を真っ白に変えた。
何してんだこいつ
何してんだこいつ
何してんだこいつ
「なっ… なん、何し…」
思考が追いつく前に体を跳ね除けられたことが幸いだ。
すっかり混乱状態の俺は、さぞ情けない惚け顔を見せていたことだろう。
発すべきことも言葉にならない俺に、天使はにやりと口角を歪ませた。
「くくっ、ふふふふ
嬉しい、すごく嬉しいよお…
君は非道なイジメの対象に、僕だけを選んだんだ。
僕のことばかり考えてこの2ヶ月過ごしてきたわけじゃないか。それってすごく最高だよ、偉主郎くん…」
「は、はあ…?」
「勘違いしてるのは、偉主郎君も同じだね。
…僕だって、君を友達だなんて思ったことは一度もない。
初めて出会ったあの日から、君は僕の、運命の人だよ」
馬鹿でかい二匹のムカデが、
背筋をずるずると這い上がったような、
そんな途方もない悪寒を覚えた。
誰かに自分の常識を覆されたのは、これが初めてだった。
✕ ✕ ✕ ✕
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