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「瀬田さん、いつもご苦労様です。おかげさまで凪君の調子がすごく回復してきましたよ」
午後になると、個室に呼ばれて担当医と今後の治療について話を進めた。
「凪君ですが、状態がだいぶ良くなってきてるので、トラウマのほうの治療を開始していくべきか瀬田さんのご意見も聞いておこうと思いましてね」
「トラウマに関する治療、ですか」
担当医は机に両手を組んで話した。
「彼が運ばれてきた状態から、複数人に性的な乱暴を働かれたのは明らかですが、実態がわかっていません。
この辺りは警察も事件解決のために情報収集が必要で、周りへの聞き込みもしていたみたいなんですが…、
どうも情報が少なすぎて、犯人集団どころか、凪君の私生活についてはわからないことだらけだそうです」
確かに、事件からもう3ヵ月近くが経とうとしているが、
凪があんな状態だったし、結局何が起きたのかは誰も把握していなかった。
「以前、凪君を見舞ったという青年が事件に関与している可能性はありますが、
名簿に記載されていた名前は偽名だったようでその足取りもわからずじまいで…
警察からも事情聴取を催促されている状況なんですよ」
そんなこと言ったって、最近やっと体に触れてもパニックを起こさず、
俺以外にも反応するようになってきたからと言って、凪が話そうとすることも、
俺のことを思い出す兆しもないのに、どうやって事件のことを聞き出そうというのか。
「でも、事件の話をし出したら、また以前の人形のように戻ってしまうんじゃ…」
恐れていることを口にすると、それは担当医も同意見だったようで、
すぐに事件の核心に触れられることはないと考えていると言った。
「凪君の状態は、極度の恐怖からくる解離性障害です。
それに記憶障害と以前からの言語障害も悪化しているような状態で、
やっと少しずつ食べられるようになってきたところで事件の記憶が蘇ってしまうと今度は回復しない恐れもあります。
それは医者としての僕の経験談から言っても今は凪君の治療に専念すべきだと判断しています」
せっかくここまで頑張ってきたことを無駄にするのはかわいそうだったし、
何にせよ、もうあんな虚ろで天井だけを見つめる凪の様子なんて見たくない。
「そこで、瀬田さんにご相談なんですが」
「…?」
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