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沸いた湯をマグに注ぐと爽やかな香りが立ち込めた。
砂糖と1つには氷を入れ、恋人は温い方を手渡してくれる。
すっかり好みの甘さも濃さも、ぬるささえ覚えてくれていた。
「沢山昼寝したから寝れねぇんじゃねぇのか?」
「眠れなかったら本読んでます。
正宗さんのおすすめを…」
言いながらするりと手を絡めとられドキドキと胸が騒ぐ。
「ん?」
冷たくて大きな手が自分の手を包む。
冷たいけれどあたたかい手だ。
「んーん…」
「俺のおすすめか。
今読んでるの面白ぇから読み終わったら貸すな。
俺も二度寝したから寝れっかな」
当たり障りのない会話。
だけど、それが良い。
特別な事は隣にいれる事だ。
それ以上を望むのは贅沢過ぎて罰が当たってしまう。
あ、でも…、正宗さんとなら地獄だって行ってみたい。
「ま、良いか。
ゆっくり過ごそうな」
「はい」
「でも、それだけじゃ勿体ねぇよな」
「…?」
マグに口をつける恋人を見やると、にっと右口角を上げた。
「遥登が嫌ならしねぇけど」
「……狡い聴き方です」
「恋人らしい事もしてぇんだよ」
言葉にするのは恥ずかしい。
だけど伝えなければ、思ってないのと同じ。
握り返すと返ってきたのは一等綺麗な笑みだった。
「誘われた?」
「…はい」
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