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ずっと傍に。
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駅へと飛び込み、駆け足で改札を目指しながら電話を掛ける。
『もしもーし? 仕事、終わった?』
朗らかな声を耳にし、ふと胸が詰まった。どうしてこんなにも、大翔を失いがたく思うのだろう。
「ええ。……すみません、少し寄り道をしていました。すぐに帰りますから、待っていてくれますか?」
『うん、待ってるよ。気をつけて帰ってきて』
たったそれだけの短い会話を終え、通話を切った傍から寂しくなった。揺らぐ心を叱咤しながら電車に乗り込み、真っ直ぐ家路を目指す。
駅からたった十分足らず。慧は忙しなく足を動かしつつ、なんとかして自らの気持ちに答えを出そうとしていた。
自分にとって、大翔はどういう存在なのだろう。失いたくない、大切な他人。ただ傍にいたいと思う反面、それだけでは足りないとも感じる。
この気持ちは、あの頃朋久に対して抱いていたものよりずっと濃く、峻烈だ。
(俺は……あいつを)
好きになったのか。そう思い当たった瞬間、足が止まった。
どうして、今の今まで気づかなかったのだろう。永続する感情はないと、あれほど手痛く思い知っていながら。
大翔を好きにならないと決めた自分の心でさえ、それは例外じゃなかったのだ。
気づいて、愕然とした。
大翔はいずれ、自分のもとを離れていくのに。そうなった時、自分は大翔を手放してはやれないかもしれない。いや、絶対に無理だ。
それでも大翔が自分を振り切って前に進もうとするなら、今度こそ完膚なきまでに打ちのめされ、二度と立ち直れないだろう。
突きつけられた現実に絶望し、なにもかもを投げ打ってしまうかもしれない。
「っ……」
唐突に、怖くなった。ただ他人を好きになっただけなのに、それが途轍もなく怖い。失うことが、傷つくことが、ただただ恐ろしかった。
自宅まであと数メートルという人気のない路地で立ち尽くす。竦みあがった足は地面に縫いつけられたかのようで、一歩たりとも前に進めなかった。
「――慧さん?」
どのくらいそうしていただろう。不意に大翔の声が聞こえ、心臓が飛び上がった。
「なにしてんのこんなとこで」
「あ……」
きょとんと首を傾げる大翔に、まともな言葉すら出てこない。
「あんまり遅いから迎えに行こうかと思ったよ。ね、早く入ろ?」
そっと腕を引かれた瞬間、留めきれない感情が溢れ出す。
それは、あの時の比ではなかった。朋久と決裂したあの日よりも、数万倍切迫した感情が胸中に溢れ返り、涙となって零れ出す。
――怖い。
「さ、慧さんっ? え、ど、どうしたのっ?」
唐突な涙に困惑しているのは、自分だけではなかった。大翔が慌てふためき、頬を伝う涙を服の袖で必死に拭ってくる。
その手に構わず、抱きついた。どこにも行かないで欲しい。自分を一人にしないで欲しい。
いつか一人になる日が、怖い。
想いは言葉にならず、ただ震えた吐息を洩らす。
「……大丈夫だよ? オレはちゃんとここにいるから」
大翔は柔らかに自分を抱き締め、そっと優しい手つきで背中を擦る。
「……本当、ですか」
でもいつまで?
「ずっと、傍にいてくれるんですか……?」
そんなわけない。分かっている。でも。けれど。だけど。それでも――。
もう、この気持ちを誤魔化すことはできない。
「いるよ。だってオレ、今さら慧さんを手放せないから」
「っ……」
その言葉を、信じていいのだろうか。いつか気が変わって、突き放されたりしないだろうか。
この期に及んでなお、自分はまだ、大翔を信じきれない。
「……中に入ろ?」
そっと唇に触れた後で、大翔が囁く。頷く間もなく手を引かれた。
「んっ……ん、……」
靴を脱ぎ捨てるなり、寝室のベッドに押し倒された。貪るような口づけとともに圧し掛かってくる重みが、慧を心の底から安堵させる。
言葉など、いくつ重ねても無意味だ。だからお互い、衝動のままにキスを繰り返し、もどかしく服を脱がせ合う。
「っ……ぁ!」
生温かい素肌を触れ合わせながら、大翔はこちらの心を解きほぐすように胸の辺りを手のひらで撫でた。その指先が敏感な脇腹を滑る。温かな指先がへその下から内腿へと、掠めるような刺激を残しながら下がっていく。
「ん、っ……あ、……ぁ」
快感に皮膚が粟立ち、乳首が硬く尖るのを感じた。そこをキュッと摘まれ、早くも荒れた呼吸の中に抑えきれない嬌声が混じる。
昂ぶった互いの性器が擦れ合い、身体の奥が鈍く疼いた。
――早く挿入れて欲しい。
繋がりたい。確かめたい。この想いがどれほど重なっているのか。もしもそこに差異があるのなら、身体の奥深くまで繋がることで埋めて欲しい。
「慧さん、手、こっち」
大翔は昂ぶった互いの性器を重ね合わせ、慧の手に包み込ませる。
熱く脈打つそれに触れ、理性が弾け飛んだ。
「あ、あッ……」
欲に浮かされるまま手を動かし、加減もなく扱く。とろとろと水っぽい蜜が互いの茎を伝い落ちた。
「上手……続けててね」
出来のいい子供を褒めるような口調で言い、目蓋にキスを落としてきた後で、大翔はゆっくりと窄まりに指先を差し込む。既に幾度となく大翔と繋がったそこは、ほとんど抵抗もなく大翔の指を飲み込んだ。
「ん、ぁ……ッ」
内壁を押し拡げ、穿つようにその一点を刺激されればひと溜まりもない。痙攣したペニスから堪えきれない愛液が飛び出し、つま先がピンと伸びきった。
「一人でイクなんてずるいよ」
大翔は小さく苦笑しながら僅かに身体をずらす。灼熱の陰茎が窄まりに触れた瞬間、一気に最奥まで貫かれた。
「ッああ……ッ!」
衝撃が快感となって全身を突き抜け、眼球の奥が真っ白に明滅する。ずるりと引き抜き、また一気に奥へと突き動かす。
「あ、あ、ッん……ぅぁッ」
容赦ない律動が繰り返されるたび、呼吸も出来ないほどの快感が引いては込み上げ、込み上げては引き、堪らず大翔の背中に爪を立てた。指先が強く食い込んでひどく痛いはずなのに、大翔は自分を突き放そうとはしない。
快感に収縮する内壁を無理矢理こじ開けながら、大翔の一部が出入りする。溢れ出す先走りが奥を濡らし、自分の中へと溶け込む感覚に溺れた。
「ま、さと……ッ、もっと……っ」
縋りついて自ら腰を振れば、腹につくほど反り返ったペニスが淫らに揺れ、自らの腹に叩きつけられる。
「慧さん、あんまエロい顔しないでよ。これでも加減してるんだからさ」
「う、そ、つけ……!」
荒々しい呼吸を降らせながら言われても、説得力などまるでない。
大翔の手が暴れるペニスを掴み、絶頂の淵へと追い詰めるように上下する。
「ん、ん……っ」
情欲に突き動かされるままきつく唇を合わせ、ねっとりと舌を絡ませた。触れ合った全ての場所が淫靡な水音を立てて発熱している。
一部の隙もないほど繋がり、いっそこのまま溶け合ってしまえたらいいと思った。
「は、あ……、っん、ん」
「もう、中に、出すよ?」
「ッ、あ、あ――」
抉るように内壁を突かれると、腰の裏側から快感が収斂していく。今まで感じたことのないような絶頂感に慄き、堪らず大翔の背中に縋りついた。
「う、あ、あ……ッああッ!」
「ッ、きっつ……!」
射精と同時に肉壁が萎縮したのだろう。大翔が喉の奥で低く呻き、痺れるような熱を奥へと放ってきた。
絶頂の波はなかなか引かない。震える内腿を軽くついばまれただけで先端から水気のある迸りが零れた。
「慧さん、聞こえる?」
鋭く激かった律動をゆったりとしたものに変え、大翔が問い掛けてくる。休息一つない追い上げに息を切らしながらも、かろうじて頷いた。
「じゃあ、そのまま聞いて。オレはどこにも行かない。ずっと慧さんの傍にいるよ。でもそれは、慧さんがオレのことを『もういらない』って言うまでだから」
「っは……なに、言って……」
誠実な声に思わず薄目を開け、大翔を見つめる。どこまでも慈愛に満ちた瞳が、真っ直ぐに自分を見下ろしていた。
「オレが慧さんを手放すとしたら、その時だけだよ。慧さんが〝離れて欲しい〟って思うなら、オレはそうする」
「ッ……ばかか、おまえ、は……っ」
そんな日は、きっと永遠に来ない。
そう、こればかりは断言できる。
「俺は、もう――」
(お前を手放してはやれない。例えお前が俺を嫌っても、この関係に飽きても、他の奴を好きになったとしても、もう、手放してやれないんだ……)
それでも、いいのだろうか。
身体の深くまで大翔自身を受け入れながら、広い背中を思いっきり抱き締めた。
「俺は、お前の全部が欲しい……っ」
衝動的に口走った言葉は、ずっと否定し続けていた自らの本心だ。
「慧さん……」
息を呑んだ大翔に縋りつき、自ら腰を擦りつけて深く繋がった。
大翔の全てが欲しい。心も身体も、時間も。
あるいはその執着心さえも。
「慧さん……っ」
「ん、あッ……は、ッあ、」
切迫した交わりに全身から汗が滲む。シーツがじわじわと濡れそぼっていくのを感じながら、頭の片隅で思う。
大翔は、とっくに覚悟を決めていたのだと。こんな自分のために傷つく覚悟を。
自分が〝いらない〟と言えば、大翔は自分を手放すと言った。だがそれは、狂おしいほど愚かな愛情なのだ。
大翔は常に、こちらの感情を優先している。自分の望みは全て叶えようとしている。
だけどそれは、自分にとって手放し喜べることではなかった。自分が大翔に抱く感情が、どこまでも悪質なものだと分かっているから。
そんな感情と釣り合いを取るには、大翔も同じように執着して欲しい。
なにがあっても手放さないと、強欲に誓って欲しい。
「大翔……っ」
自分の内側で脈動する大翔の一部を感じ、熱に浮かされながらその名を呼んだ。
スッとこめかみに伝う涙を、大翔が優しく舐め取る。
「……全部あげるよ。慧さんが欲しがるなら、命だってあげる。だから慧さんも、オレを信じて。どこにも行かないで……ね?」
「ん……」
泣きながら頷いた。四半世紀も生きてきてこんなことは初めてだ。
誰かの言葉を嬉しく思って泣くなんて。
大翔の温もりは自分の全てを塗り替える。傷つくことに対してひたすら臆病だった心が、大翔を疑わないと決めた途端、揺ぎなく強固なものへと変わっていった。
「大翔……」
「ん、なに?」
ふと視線が合うだけで、満ち足りた気分になる。初めて、この現実世界を愛せるような気がした。
大翔が存在している、この世界を。
他人を好きになるということがこれほど幸福なことならば、もっと早くに出会いたかった。
お互いに柔らかな微笑みを交わし、そっと口づける。
この時間は、この関係は、この感情は、全て永遠のものだと信じた。
心から。
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