アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ジュリアスの想い人-2
-
リバーダルスが幽閉塔を訪れた途端にジュリアスの人形の様な表情が少し和やかになり、頬にも赤みがさして反応を示した。
「リバー。会いに来てくれたのか?」
「ジュリ、俺のことが分かるのか?」
お互いを『リバー』『ジュリ』と愛称で呼び合う姿は以前親しかったことを如実に表しており、傍で聞いていたハルは心配気に見てくる美琴に話しかける。
「やばいよね!美形どうしの切ない恋バナなんてなかなかお目にかかれないよ!」
わざと明るく振る舞い茶化してくるハルを見ながら、美琴はこちらの方が余程切ないわよと悲しみに暮れた。
「ジュリ……俺は今からお前にかけられた術式を解くために口付けをする」
「リバー。ずっと君を待っていたんだよ」
あくまでも仕事と割り切っているリバーダルスとは違い、熱にうなされたように蕩けた顔で見上げてくるジュリアスはとても美しかった。
「うっはぁ、美形が絡み合うのって滾るよな!僕には寝取られ趣味なんて無かったはずなんだけど、ドキドキする。あれ?団長と僕は付き合っていないから別に寝取られにはならないのか?へへっ」
過去に愛し合ったもの達の愛再び!なんて腐女子なら最高に美味しいシチュエーションなのにな、とはしゃいで見せたハルに美琴がとうとう切れた。
「何を強がっているのハル!悲しいんでしょう?悲しいときは悲しみなさいよ!あんた本当に素直じゃないんだから……」
涙を浮かべながらハルの肩を叩いて訴えてくる美琴を見て、自身も目頭が熱くなり、それまで抑え込んでいた辛さが一気に湧き上がってきた。
目の前では色気に充ちた表情へ期待を含ませたジュリアスが、逞しいリバーダルスの腕に手を添えて、彼からの口付けを熱望し、形の良い唇を半開きにさせて待っている。
(団長にディープキスなんて教えなきゃ良かった……きっとこのままだと、彼らは舌を絡ませて……破廉恥なキスをーー)
自分の想像に耐えられなくなったハルは、我慢が出来ずに飛び出していくと、今からキスをしようとする二人の間に体を入れて、リバーダルスにしがみつき叫びだした。
「やっぱいやだいやだ!やだやだー!団長は僕のだー!他の人とキスなんかしないで下さいよ」
必死で嫌だと言いながら泣きつくハルの姿に何故かホッとしたリバーダルスは、縋り付く部下の肩を優しく撫でてやる。
その行為に勇気づけられたハルはガバッと振り向き、ボロボロ涙を流しながらジュリアスに話しかけた。
「ねえ!元に戻ってよ!ゼロとか言うクソ男の術式なんて知らねえよ!もう怒ったぞ。僕はチート持ちなんだ……古代より伝わるタチの悪い術式よ、全て解除せよ!!」
ハルが声を張って言い終わるとその瞬間、土壁が砕けて落ちるようなパラパラという音が部屋の中に広がっていき、メキッと大きく響いたあと術式が綺麗に削げ落ちた。
魔法だけに留まらず古い術式にまで力を発揮し、見事に解いてしまったハルを見て、その場に居たもの全てがハルと女神・アリーシャに感謝しながら祈りを始めた。
正気を取り戻し元に戻ったジュリアスは、今までの記憶も残っていたようで、薄暗闇の中に蹲っている感覚から漸く抜け出せたと安堵している。
「あーっと。団長……そのご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。それからハルもすまない……ヘンリーも、ごめん!」
頭を下げるジュリアスに駆け寄った現恋人のヘンリーは、ハルに苦笑いを向けたあとジュリアスに向かって穏やかに話しかけた。
「僕は全然かまへんよ。よう戻ってきてくれたね。ゆっくりゆっくり立ち直っていけばええねん。失恋ってそんなもんや」
寛大なヘンリーに心を打たれたジュリアスは、ここでケジメを付けようと決心し、未練も含めてリバーダルスにぶちまけた。
「リバーの隣が懐かしかったよ。あの時別れていなければ、今もリバーの隣にいられたのは俺なのかな」
「君は俺を嫌いになって去ったのだろう、何を今更ーー」
「リバーを嫌いになるわけが無いだろう!君はいつだって俺の憧れの人だよ……追いかけて欲しくて離れたのに……そのまま別れてしまって、悲しかった」
付き合い出してから幾日が過ぎても一向に手すら握ってこないリバーダルスに対して、自分の気持ちとは違うのだと分かったジュリアスは虚しさを覚え、寂しい日々を送った。
煮え切らないリバーダルスの本心が知りたくて、別れようと言ったのはジュリアスにとっては賭けでもあった。
「俺は駆け引きはできないんだ……すまなかった」
「そうだな。……それにリバー、君は誰も愛さないと思っていたよ」
「俺もそう思っていたんだがな……まだ希望は残っていそうだ。ははっ」
少し自嘲気味に笑うと目を丸くしているハルをちらっと見る。
ジュリアスは何かがふっ切れたように微笑むと、スッキリした気分で明るく言い放った。
「ハルがリバーを変えたんだな。その役目が俺だったら良かったのだが、俺ではダメなんだ。実はそういうことにも気がついていたんだよ……ハルなら必ずリバーが幸せになるよ」
「ハルには良い風が吹いてきてるみたいやな。まあ、僕も団長を超える自信は全くないねんけど、ジュリアスに真実の愛を教えるために頑張るで!」
何処までも前向きなヘンリーに感謝したジュリアスは、彼の手を握ってこれからも宜しくと告げた。
「うわー、なんかめっちゃ良い感じでまとまったけどさ……愛称呼びとかズルくないですか?団長!僕も愛称で呼んでくださいよ!」
どさくさに紛れて再びリバーダルスにしがみついていたハルは、マイペースに自分の欲求を満たそうとする。
ブレないハルに呆れた顔を向けたリバーダルスは、ふと考えたあと不思議そうに言う。
「お前な、……愛称で呼べってそもそも無理だろ。『ハル』だぞ?どう略すんだよ」
「うぅ。そこは『ハ』とか『ル』とかで言っちゃいましょうよ」
「「「呼びにくいわ!!」」」
リバーダルスの声に重ねて突っ込みを入れたのは、やはり息ピッタリな美琴とメイロードだった。
*
「さて、俺の知っている情報を話します。ゼロと呼ばれる狐の獣人がサブボスですが、黒幕は魔力の強い獣人だと思われます。……そして、彼らの知識の豊かさから察すると、王宮に出入りのできる人物になりますね」
ただその人物の名前までは分からないと悔しがるジュリアスだが、王宮に出入りの出来る身分だと分かっただけでもかなりの進歩だ。
「それから獣人誘拐事件はゼロの独断で行われました。黒幕のことを『あの方』と呼び随分と崇拝しているようで……仲間を増やすことに行き詰まったゼロが獣人の子供を誘拐して洗脳しようとしておりました」
苦しげに話すジュリアスは、獣人誘拐に関してはまだまだ始めたばかりなので、充分に洗脳されていない内にすぐさま見つけて保護すれば被害は大きくならないと語った。
「分かった。……それとラビッタ討伐でジュリアスが死に急ぐような戦い方をしていたのとは何か関係があるのか?」
「はい……俺は許されないことをしました。全てを話します」
狐の獣人・ゼロが育成魔法を使いラビッタの親に向けて、成長が驚異的に進む魔術をかけ、異常な数のタマゴを生ませた。
ジュリアスは上司に言えば弟の命が危なくなるぞと脅迫を受けていた為、それを知っていたにも関わらず上司に報告することが出来なかった。
その上お前は黙っていたのだから我々と共犯だと脅されて、俺さえ居なければ弟達の命が狙われることもないんだと嘆き、無茶苦茶な戦いをしていた。
もう死んでもいいやと自暴自棄になっていたところ、ハルに声を掛けられてこんな自分を心配して来てくれたことに嬉しさと切なさの感情がごちゃ混ぜになり、気がつけばハルを庇って怪我を負っていた。
自害を覚悟していたジュリアスは、ハルの命を助けられたことで一時的に冷静になれたのだが、しつこいゼロに追い詰められて奴らの言いなりになってしまった。
ハルが見つけた誘拐場面がジュリアスの初の犯行であり、阻止してもらえて感謝していると述べた。
「いやいや。言いなりって言うか、弟を人質に取られたジュリアスは、ある意味被害者だよ」
「そうだな……ジュリアス。罪滅ぼしがしたいのなら、王城内で騎士を育てる任務につけ。弟達なら護衛も付けているし安全だ。それに彼等には王城への通行許可証が与えられたから何時でも会えるぞ」
ハルの言葉に大きく頷いた第一騎士団 団長・コナーが、真剣な表情でジュリアスに今後の話をし始めた。
「ですが!!俺にはそんな権利は持てません」
「当然しばらくの間は反省をさせる為、王城からは出られない。戒めは与えられたのだから良いだろう。……それと母親の治療費で脅されていた獣人も母子共に保護されている。全て国王陛下の計らいだ。有難く受け取っておけ」
信じられない程の待遇の良さに、ジュリアスは涙を流し、何があっても裏切りませんと誓った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 81