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彷徨うもの 60
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先程から夜の闇に紛れて、鬣犬たちが連れて来た【巨大ナマケモノ】が何やら大きな荷物を運び込んでいる。
アキラへの献上品だというそれに、既視感を感じているセベクがいる。
その【荷物】を持参したのはあの、鬣が長毛のリーダーのグループだった。
己がテリトリーを隈なく探して集めた品々。
従者に何事か囁かれ、急に席を立った件の鬣犬のリーダーに、訝しげな視線を送ったのはナイアー。
鬣犬は基本、グループ単位で生活し、そのなかのリーダーがグループ全体を統治する。
言わば、超微小な “ 国 ”単位で暮らしていて、他のグループの干渉はしないし、また受けない。
隣り合ったテリトリーの者なら交流するかもしれないが、健全な交配の為の婚姻以外、他グループと交わる事は無い。
ましてナイアーと、件の鬣犬は種族が違う。
ナイアーは、現代で言うところの【ブチハイエナ】だが、件の鬣犬のグループは【カッショクハイエナ】だ。
『一体、何をするつもりだ? 』
ナイアーの胸が、嫌な予感にざわめき立つ。
視界の隅にその姿を留めて、それとなく追っていると彼は上座の鰐王らの元に向かっていく。
何事か遣り取りしている側で、天女殿が目を輝かせている。
そして天女殿と鰐王をはじめ、一行が立ち上がった。
今度はアビス殿が抱き上げて……どうやら庭に向かうようだ。
「おくつろぎのところ、申し訳ございません。
先程申していた土産を中庭に運んで参りました。
どうか、お納め下さいますよう 」
オクラのピクルスを指で摘まんで口に入れているアキラの前に、先程の長毛の鬣犬のリーダーが進み出てきて、丁寧な言葉で口上を述べる。
目配せをし合った三大夫とヘデデトが立ち上がった。
「ほら、来い 」
差し伸べられたアビスの両腕に躊躇無く、その身を任せて……中庭へと誘われていく。
「これって……これって…… 」
己の運んで来た荷物を守るように、その巨体を盾にして座っていたナマケモノたちが、長毛鬣犬のリーダーの合図と共に身を引いて、皆の前にその【品物】を晒した。
そして “ それ ”を目にしたアキラの動揺は、明らかだった。
見覚えのあるものに、セベクは片眉を上げる。
「まだ……あったんだ…… 」
呆然と見つめることしか出来ないアキラに代わり、セベクの決断は早かった。
「すまない。
奥の我々の住居に、同じようなものを納めた倉庫がある。
そこまで運んでもらえないだろうか?
アキラはすぐに開けたがるだろうし、あそこの方が都合がよい 」
3頭のナマケモノがすぐに銀色の箱を担いだ。
緑色に汚れてはいるが概ね状態は良さそうだ。
はじめの衝撃から回復したアキラはもう……開けたくて、うずうずして、堪らない。
その【サウスアフリカ・エアライン・カーゴ】と読み取れる銀色の箱を。
今回運ばれてきた3個のコンテナと前回の1個。
この4個、実は共通の特徴があった。
南ア航空は爆弾テロに備えて、特殊素材のコンテナを導入していた。
通常のコンテナはジェラルミン製だが、このコンテナは爆発などに備え内側をケプラーカーボンで補強された特殊構造だった。
あの爆発の時、このコンテナだからこそ、機体が空中分解で済んだ。
通常のコンテナであればアキラもろとも木っ端微塵だった事だろう。
それは外的衝撃にも効力を発揮した。
直接地上に落下して激突したものは大破を免れなかったが、件の鬣犬のテリトリーは森林地帯を含むので、一度樹木に落下して衝撃を緩和されたコンテナはほぼ無傷だった。
中の状態は開けてみないとわからないが、それは鬣犬たちの仕事では無い。
「よいのか? 」
「うん、お願い…… 」
“ どうせ鍵、無いし ”
セベクの爪がコンテナの開閉部にかかり、丈夫なはずの金属を切り裂いた。
アキラはゾッとする。
もし、あの爪が自分に向けられれば……ただではすまないだろう。
メリメリと音をたてて開いた開放口から、セベクが荷物を引き出している。
それ程荷崩れしていないのは荷物の量が多いからだろうか?
前回受けた注意通り慎重に扱っていたその時、アキラから叫び声があがった。
『うわーっ!!
それ! それ!! 僕のーっ!!! 』
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