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彷徨うもの 61
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耳慣れない言葉で叫んだアキラが、アビスを突き飛ばすようにして飛び出してきた。
唖然とするセベクからひったくるようにして受け取るとそれを抱き締めて、崩れ落ちるように膝をつく。
ルイヴィトン・ベガスをベースにした特注品。
エーヴァから贈られたそれはスカイブルーのパテントレザー製の一点物。
明良・インドレニウス=ザレヴスキ・真亜都の紋章入りのスーツケース……
もう二度と見ることが無い……と。
それをふたたび手にする事が出来て、アキラは薄っすらと涙を浮かべていた。
そして今自分が、久しぶりに母国語を使った事に……苦笑した。
「ごめんなさい。
これは僕の荷物なの……。
もう二度と手にする事は無いと思ってた…… 」
顔をあげたアキラは周りを見回しある人物を捜した。
すぐに見つかったその【ひと】の胸に飛びついたアキラの姿に、本人ばかりか周りのものも仰天している。
2.3m程ある身長の半獣人である鬣犬は飛びついてきた天女を慌てて抱きとめた。
「ありがとう!
本当にありがとう!!
どれほど感謝しても、し足りないくらい! 」
鼻先に口づけて、胸に顔をうずめる……
しっかりと抱きつくアキラの身体を抱きしめて……
たった今、鬣犬のなかで何かが生まれ……形づくっていく。
叶わぬ恋慕の想いはどんどん膨れあがって鬣犬を捉えていった。
自分のスーツケースと揃えのガーメントカバーを自室へ、後の物を収集棟へ運ぶように頼むと、件の鬣犬のリーダーの腕に自らの腕を絡ませて、大広間へと戻っていく。
「お願い……
あれがあった場所の状況を教えて下さい 」
きらきらと目を輝かせて、アキラは鬣犬を離そうとしない。
それが彼にとってどれほど嬉しい事か、またどれほど酷な事かアキラにはわかっていなかった。
獅子の若君アペデマク。
成人を真近に控えアキラとの婚姻に心躍らせていたこの頃、夫君全員が勢揃いする会が開かれる旨、呼び出されたこの中洲で、あり得ない物を見、あり得ない話を小耳に挟んだ。
……まずは謁見の場での衝撃。
天女の夫君は、契りを交わしたもの、名目のみのもの、自分も入れて17人だったはずだ。
それがネフェルテムを入れて18人になっている。
……そのネフェルテム。
以前、アヌビスの館で会った時は確か幼年に近かったというのに、あれからさほど刻が過ぎたわけでもないというのに……
見かけは自分と変わらない。
面妖だったのはそれだけでは無い。
可愛らしかったその容貌の半顔に酷い怪我をして、聞くところによると片眼が無いというのだ。
それに加えての、先程の遣り取り。
親密さが窺える二人の様子にざわめく胸を抑えてあの場を乗り切ったのだが……
とどめは、聞きたくもないというのに耳に入ってきてしまった事実。
血相を変えたアペデマクは乱暴に席を立ち、丁度退室していこうとしているアキラの後を追った。
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