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愛しいひと… 4
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ヒトガタのときよりは確実にひと回り以上は大きい、半獣人の形態に変化したセテフは、己の感情を制御出来ない……獣と化していた。
ギリギリのタイミングで席を立ったクヌムの前を、真っ二つに裂かれた卓が宙を飛び、壁に当たって砕けた。
「ラー……! ラー! ラーーっ!!」
獣形の “ 耳まで裂けた ”口蓋から鋭い牙を覗かせて、唸り声をあげながら興奮をおさえられないセテフを抑えようと近づくセベクを突き飛ばし、その手はクヌムの首元を掴んだ。
「ラーの命が危ない……と?
ラーが死ぬというのかーーっ!?」
「……っ……
セテフ殿……申し訳ない……申し訳ない……」
首を締め上げられながらも、澄んだ瞳でセテフを見つめる……そのクヌムの目から涙が溢れ、一筋零れ……落ちる。
首元を掴んだ手が震え、セテフは静かに手を離した。
「く……っ!」
おそらく、自分でもどうしようも無いのだろう。
溢れる怒りを……不安を、断ち切るようにセテフは滾る。
迸る憤怒の負の感情は最早瘴気となって、セテフをも取り込んでいく。
射千玉のセテフが己を律する事が出来ていたのはこのあたりまで。
この後彼は、己の破壊衝動のみに突き動かされる事となる。
尋常でない破壊音に鰐館の者たちが駆けつけると、セベクですら手をつけるのを躊躇われるほど凶暴化したセテフ《戦神》が客間を完膚無きまで叩き潰している。
渡しの者たちや、監視の者たちが駆けつけて来てセテフを止めに入る。
「馬鹿……! 駄目だっ!」
セベクの停止の言葉もすでに遅く、セテフの前に姿を現しただけで、その鋭い爪の餌食となる。
それなら数の力ではどうだ……と、集団で挑んだ者たちもことごとく返り討ちに合った。
……セテフは得物を持っていない。
この事が鰐人たちにナイフや剣を抜かせる事を躊躇わせていたのだが、もともと絶対的な武力を誇る戦神は己が爪だけで衛士を引き裂いていく。
ここで漸くアビスがアヌビス兵を伴って駆けつけて来た。
その目に映ったのは、閃光のように爪が舞い肉を裂く、鰐人たちの血にまみれた叔父の姿。
【戦神】セテフは、その目に妖しい炎を帯びさせて、畏怖すら感じさせる微笑をその美しい顔に “ 貼り付けて ”いる。
「叔父上!!」
最早、アビスの呼び掛けにも反応を示さず、さながら血に飢えた獣のように犠牲者を増やしていくセテフ。
アビスは意を決したように手にした鉾を叔父に向けた。
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