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愛しいひと… 28
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とろとろと微睡んでいたはずのアキラが、突然目を見開いて、けたたましい悲鳴をあげたかと思うと、微かに……ふたりの夫の名を呟いて動かなくなった。
ほんのり色づいていた頬から血の気が失われていく。
程なく、真っ白になった顔色のアキラはピクリともしない。
「ひめ……ぎみ……?」
吃驚して、一瞬固まる鬣犬。
慌てて魔羅を引き抜いて、抱き起こそうと繊手を取り上げた瞬間、異常を感じた。
どちらかと言えば子供の身体に近いアキラは、眠っているときなどはそれが顕著に出て、特に四肢の先は獣人が暖かいと感じるほどなのだが……今のアキラの手からは体温そのものが失われていっている。
膝上に抱き上げた下肢も同じく冷たくなっていく。
「うわあぁぁぁーーーっ!!
姫君! 姫君! 姫君ーーっ!!!」
アキラの悲鳴と、それに続く鬣犬の絶叫に、妹と禿鷹のムートはすぐに寝所に駆けつけた。
褥の上では、放心状態の鬣犬に死人のような顔色の天女が抱き締められていたが、力の入らない身体から腕と首が垂れ下がっていて、まるで……
つかつかと近づいたムートが、鬣犬から引き剥がすようにアキラを抱き寄せると、口許に手をかざし、左胸に耳をつけた。
「大丈夫だ! 生きてるぞ!!
だが、かなり弱っている。薬師を連れて来るから待ってろ!」
「いや……」
鬣犬の手がムートの腕を掴む。
「姫君を……クシュにお戻しする」
すぐに自分を取り戻した鬣犬は簡単に処置をして……すべてを掻き出している猶予はない……まず、妹に持って来させた真っ新の布で全裸のアキラを包み、羊の毛皮で包んでから毛布や上掛けで防寒の対策をし、自分も簡単に支度してムートの鞍上に収まった。
武器の類いは携行せず、恭順の意を示すつもりだ。
『どうしてこんな事に……』
鞍上の鬣犬は自問自答していた。
未明の暴風雨の名残か冷たい風の中、腕に抱いたアキラをしっかりと抱き締めて、その冷たい頬に頬ずりした。
呼吸を妨げないよう顔の部分を開け、風があたらないよう胸元でしっかりと抱きかかえて、鬣犬は思い巡る。
お可愛らしい天女の笑顔が見たかった……
その笑みを自分に向けて欲しかった……
ただ、それだけだったのに……。
どうしてこんな事になってしまったのだろう……
鬣犬は、アキラの頭まですっぽりと覆っている毛布を少しずらした。
呼吸の為に開けていた空間よりずっと広く寛げて、その髪を梳き、肌に触れ、冷たい唇を指でなぞった。
そして鼻先を首筋にうずめる。
ペロペロと舐め、鼻面を押しつけながら鬣犬は涙する。
……これが最後。
このあと……手を離した瞬間が永遠の別れとなるであろう愛しいひとを抱き締めて、鬣犬の嗚咽はいつまでも止まなかった。
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