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たどり着いた食堂は腹が減ってるのもあって、めちゃくちゃいい匂いがした。
わりと早めに来たと思ったが、食堂には既にまばらに人がいる。
「先に席へ行っていろ」
そう言って有坂が券売機の方へ足を進めたから、ひょこひょことついていく。
せっかくの学食デビュー。
初めてきたしどういう仕組みか知っておきたい。
有坂はなんでついてくるんだ、みたいな目をしたが気にせず券売機の前にいる有坂の横に立ち並ぶ。
メニューは思ったよりたくさんあって、そのどれもがめちゃくちゃ興味をそそる。
思わず目についた唐揚げ定食のボタンを押した。
「おい、何して――」
「俺これ食いたい。お前に弁当やるよ。いいだろ」
そう言って出てきた食券を受け取る。
有坂は一度俺を見つめたが、仕方ないとばかりに俺を引き換えカウンターへと誘導してくれた。
程なく出てきた唐揚げ定食を受け取って、食堂の仕組みに興奮しながら有坂と一緒に空いている席に座る。
二人で向かい合って座ると、改めて友達と一緒に飯を食えることに喜びを噛み締めてしまう。
とはいえ有坂は食うの早いし、練習もあるし、のんびりしてる時間はない。
さて、今日はなんの話をしよう。
有坂と話したいことはまだまだ山積みで、聞きたいことも話したいことも何からいったらいいのか分からないくらいたくさんある。
有坂のこと、自分のこと、好きなものや趣味だったり嫌いなものだって全部知りたいし話したい。
まあそれでも、まず一番に話さないといけないのはこれだ。
誘われたのが嬉しすぎてちょっと飛んでたが、これを忘れてはいけない。
そう。ホモ疑惑を解くことだ。
「なあ、有坂。昨日の話なんだけど――」
「あれ、有坂じゃん。学食にいるの珍しいな」
ちょうど切り出したタイミングで、不意に有坂の背後から声が掛かる。
見ればガタイの良さそうな坊主頭がいた。
誰だコイツ。俺と有坂の間に入ってくんな。
「この間はありがとなー。お前のおかげで助かったって監督も言ってたわ」
「いえ。別に」
「その調子で夏大も頼むわ。ほんとお前が入部してくれて助か…って王子!?」
ガハハと笑いながら有坂の肩を叩いていたが、不意に俺と目が合うと威勢の良さそうな顔がぶわっと赤くなっていく。
俺と有坂の顔を交互に見てから、サッと足早にいなくなってくれた。
邪魔者が消えたのはいいが、スキンシップとか随分親しそうな感じだったな。
「誰だよ今の」
「野球部の主将だ」
「ああ、なるほど。助かったって言ってたけどお前なんかしたのか?」
「特に何もしていない。野球部に入部しただけだ」
「――は!?」
ちょっと待て。
なんかサラッと言ったけど野球部入ったの最近かよ。
大事な夏大前みたいな言い方するから、てっきり一年の頃から頑張ってきたのかと思ってた。
「野球部の顧問に人数が足りず夏の大会の出場が出来ないから、入らないかと誘われたんだ」
「マジかよ。有坂経験者だったのか?」
「いや、初心者だ。背が高いからホームランを打てると誘われた」
なんだその理由は。
顧問も適当かよ。
なんとなく弱小野球部の理由が分かってきた。
「顧問も野球は未経験者らしいからな。俺で力になれるのならと入部したんだ」
「…なるほど。だから大会前だし昼休みも必死に練習してたのか」
この間入部したばかりの野球未経験者で、三年の引退がかかってる夏の大会前となればそりゃ練習もするか。
というかコイツ初心者のくせに目標全国制覇とか言ってたのかよ。
衝撃的すぎる事実というかアホだろ。
なんだか色々ツッコミどころはあるが、とりあえず野球部の話はあとだ。
それよりまずはホモ疑惑の方をなんとかしたい。
「なあ有坂、それより昨日の話なんだけど――」
「お、有坂珍しいな。お前最近顔出さないから、顧問がお茶減らないって言ってたぞ」
またしても切り出したタイミングで声が掛かる。
顔を上げれば丸メガネのひょろっとした奴がいた。
誰だよ。
だから俺と有坂の邪魔すんな。
「ああ、すみません。今野球部の方が大会が近いんで」
「ならしょうがないな。また茶飲みながら一局手合わせしたいって言ってたぞ。たまにはあのおじーちゃん先生に構ってやってくれよ」
「はい。こちらこそまた手合わせお願いします」
「お前なにげに強いからな。そういえばこの間…って王子!?」
じとっと目を細めて丸メガネを睨む。
早くどっかいけ。俺と有坂の邪魔すんな。
視線で訴えてたら、丸メガネはサッと顔を赤くしてそそくさといなくなってくれた。
「おい。誰だよ今の」
「囲碁部の主将だ」
「囲碁!?お前囲碁もやんの!?」
「何か悪いのか。人がいないからと誘われたんだ」
「理由野球部と同じかよ」
淡々と言われたが、こいつ部活掛け持ちかよ。
夏大終われば暇になるだろという俺の計画が台無しじゃねーか。
暇になったらきっと俺と学校帰りとか遊んでくれると思ったのに。
「…念の為聞いておくが他には部活入ってないよな?」
「部活の掛け持ちは二つまでとされている」
「そっか。ならまあ…」
「あとはいくつか同好会に所属している」
「マジかよ」
呆然とする俺を他所に、有坂はこの調子で何人かにその後も声を掛けられ続けた。
聞けば料理研究会、ゲームアニメ研究会、超常現象研究会、競技かるた会と様々なものに所属していた。
絶対コイツ人いないからって頼まれて入っただけだろ。
その度に邪魔すんなと視線で威嚇してやったが、コイツはあれだ。
間違いない。
最強のお人好しだ。
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