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ジリジリと蝉が鳴く。
終業式を終え、待ちに待った夏休みがやってくる。
めちゃくちゃ楽しみすぎて眠れない夜を超え、ようやくやってきた当日。
その日俺達は朝から駅で待ち合わせをして、有坂の実家へと向かっていた。
聞く所によると有坂の実家は、新幹線から電車に乗り換え、バスを乗り継いで4時間くらいの距離らしい。
新幹線で隣り合った指定席に座ると、もう既に楽しくてやばい。
何がヤバイって有坂と休日に遊ぶのも初めてなのに、それどころか夏休み中ずっと一緒にいられるとかもうやばすぎだ。
こんなの楽しすぎて一生興奮出来る。
「なあ、有坂の実家ってどんな感じ?旅館って大きいのか?お化け出る?仕事って接客だよな?おやつ持ってきたから食う?」
新幹線で隣り合った指定席に座りながら、心が弾むまま有坂に話しかける。
今日は有坂もさすがに私服で、涼しげに見える爽やかシャツがいつもと違う雰囲気だ。
「楽しそうだな」
そして俺の質問に何一つ有坂は返さないが、そんな状況でもめちゃくちゃ楽しい。
窓から過ぎていく街並みを見たり、車内販売のお姉さんから弁当買ってはしゃいだり、俺の選びに選びぬいたおやつ10選を語ったり、その他色々話をしながら有坂との時間を過ごす。
これまでのぼっちな日々を思えば友人と過ごせる夏休みは俺にとって本当に尊く、夢みたいな時間だ。
「――結城。おい、起きろ」
「…んー?」
有坂の声で意識が浮上する。
騒ぎすぎた結果、本当に夢の中に突入していたらしい。
昨日寝られなかったせいもあるが、俺は子供か。
「降りるぞ」
「――えっ、もう?」
「ああ。電車に乗り換える」
そう言って俺のキャリーバッグを有坂が引いていく。
旅館にあるもので事足りるから荷物はいらないと言われたが、色々考えてたら海外旅行ばりに荷物が多くなっていた。
対して有坂は土産くらいでほとんど何の荷物もナシだ。
まあ有坂の場合旅行ではなく実家に帰るわけだから、荷物が少ないのも当然か。
爆睡したことで時間を無駄にしたのはめちゃくちゃ悔やまれるが、新幹線を降りてみるとそこはもう全く知らない場所だった。
更に電車に乗り換えて窓から景色を眺めれば、遠くに歴史ありそうな寺の屋根とかが見えてくる。
そこからバスに乗り継ぐと、一気に街並みが変わった。
一昔前の時代に戻ったような、趣のある風景。
まるでその場にいるだけで時代劇の登場人物にでもなれたような気分になるそこは、日本文化オタクの俺の母親連れてきたら大はしゃぎ間違いなしだ。
自然も多く通りは多くの観光客で賑わっていて、当たり前のように着物姿の女性が歩き人力車まで走っている。
和の情緒溢れるこの場所が、有坂の生まれ育った街。
「結城との関係は親には話してある。他人の家だと気負わずに寛いでくれ」
「分かった。でもちょっと緊張してきたなー」
バスに揺られながら、楽しみ半分ビビリ半分な気持ちで胸に手を当てる。
有坂の母親って老舗旅館の女将だよな。
有坂の生真面目な性格からしても、めちゃくちゃ厳しい人だったらどうしよう。
俺怒られるのマジで苦手なんだけど。
「大丈夫だ。旅館の従業員も皆良い人だから、結城を歓迎してくれるだろう」
有坂はそう言ってくれたが、正直もし有坂にソックリな母親だったら見た目だけでビビる自信がある。
とはいえこれから一ヶ月くらいお世話になるわけだから、そう縮こまってはいられない。
「遠いところからようこそおいで下さいました。お話は聞いていましたが、まさか桐吾さんがこんな綺麗な殿方を連れて帰ってくるとは思いませんでしたよ」
「あ…は、初めまして。結城益男です」
「まあ、素敵なお名前ですね」
名前だけはこの場所にバッチリ合ってる自信がある。
全く嬉しくねーけどな。
有坂の母親はニコニコと穏やかな笑顔で俺を出迎えてくれて、想像とは違って優しそうな人だった。
顔は全然有坂に似てないところを見ると、コイツ父親似か。
「桐吾さんから大切なお方だというお話はちゃんと伺っておりますよ。家族だと思って遠慮せずに接して下さいね」
「…あ、有難うございます」
ひょっとして有坂も俺を親友だと言って紹介してくれたんだろうか。
さすがの俺もちょっと緊張してたから、その言葉でホッと肩の力が抜ける。
「お久しぶりです。荷物を置いたら、結城に館内を案内したいのですが構いませんか」
「あらあら。それは構いませんが、益男さんも長旅でお疲れでしょうし少しゆっくりなさったらどうですか?」
「…む、それもそうか」
「あ、いや。大丈夫ですっ。新幹線で爆睡したんでまだまだ元気だし、ありさ…桐吾くんと一緒に俺も見て回りたいんでっ」
勢いよく口を挟んだら、クスクスと有坂の母親に笑われた。
というかコイツ親に敬語かよ。
そういえば有坂の母親も息子のこと『さん』付けで呼んでたし、俺の育ってきた環境とは違ってこうなんというか、品位があるっつーか。
「益男さんはとても元気がお有りな方なのですね。ではその前に少しお支度をいたしましょうか」
「支度?」
玄関口で会話をしていたが、どうぞと中へ通されて館内へ上がり込む。
今までホテルに泊まったことは何度もあるが、旅館は初めてだ。
旅行じゃなくてバイトに来たことを忘れちゃいけないわけだが、それでも見慣れない日本古来の建築様式は新鮮だ。
早く有坂と探検したい。
木造りの長い廊下を歩き、障子を開けて通された一室へ入る。
続いて後ろにいた有坂が部屋に入ろうとしたが、母親に止められた。
「桐吾さんは益男さんのお荷物をお部屋に持っていって差し上げなさい。こちらはいいと言うまで入室禁止ですよ」
「――えっ」
その言葉に少し驚いたが、有坂は母親の言葉に頷くと俺のキャリーバックを持ってどこかへ行ってしまった。
いきなり有坂の母親と二人きりになったわけだが、一体何をされるんだ。
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